利他を巡る東西の対話 イタリア館で高野山会議

東京大学先端科学技術研究センターと県などが共催する多分野の対話の場「高野山会議」が26日、大阪・関西万博(大阪市)のイタリアパビリオンで開かれた。「マンダラ いのちの循環」をテーマに、真言密教の利他の精神や西洋美術、アートデザインなどを巡って専門家らが多彩な議論を行った他、同館のメイン展示室にオブジェ「利他の蓮華」が一日限定で展示された。
高野山会議は、科学や芸術、宗教など多彩な分野の識者らが人間性と倫理観のある未来に向けて語り合い、発信するイベントで、2021年から高野山で実施し、今回が初めての県外会場での開催。イタリア館の文化・教育部門代表であるロッセッラ・メネガッツォさんが、同センターの客員准教授を務め、同会議の開催に協力してきたことから実現した。
オープニング式典はメイン展示室で行われ、マリオ・ヴァッターニ大阪・関西万博イタリア政府代表や宮﨑泉知事、今川泰伸金剛峯寺執行長らが出席。古代ローマ帝国時代(2世紀)の大理石の彫刻「ファルネーゼのアトラス」を背景に、高野山真言宗青年教師会による声明(しょうみょう)が響き渡った後、出席者が「利他の蓮華」のデモンストレーションを行った。

「利他の蓮華」は、高野紙と折り紙の技法による八葉の蓮華の花びら、宮大工の木組みの技術で造られた花びらの開閉機構、1万人の子どもたちが夢や願いを記した紙片を貼った蓮華座からなるオブジェ。高野山壇上伽藍にある六角経蔵のように、周囲の取っ手を回すことで花びらが開閉する。出席者が力を合わせて取っ手を回し、蓮華が美しく花開くと、拍手が湧き起こった。
式典に続いて専門家による対話が行われ、「マンダラ 利他の蓮華」と題したセッションには、アンブロジアーナ絵画館のアルベルト・ロッカ館長、高野山大学の添田隆昭前学長、和歌山市出身で関西パビリオン・和歌山ゾーンの総合ディレクターを務める吉本英樹同センター特任准教授、高野口町出身で高野山会議の生みの親である神﨑亮平東大名誉教授が登壇した。
ロッカ氏は、異文化について考える上での重要な前提として、「同じ概念が全ての言語に存在するわけではない。この点を忘れると誤解が生まれる」と指摘。その上で、西洋のキリスト教芸術で描かれてきた神に関する表現の事例を紹介し、キリストを宇宙の王とする概念や、新約聖書のヨハネ黙示録にある言葉「私はアルファであり、オメガである(第一歩であり、最後に到達すべき究極のものである)」などが示すものが「大日如来と近く、非常に興味深い」とし、宇宙の象徴への精神的な道のりにおいて、多元的なものから一へと向かう点にキリスト教と仏教の共通点がみられると話した。
添田氏は、全ての衆生に仏になる可能性があると示した大乗仏教の思想「一切衆生悉有仏性」について、衆生という言葉が指す範囲に議論があるが、密教の「胎蔵正曼荼羅」がこの問題を明らかにしていると説明。同曼荼羅には、大日如来を中心に、さまざまな動物や星座、神々、仏菩薩など宇宙を構成するあらゆる存在が描かれており、子宮を意味する「胎」が示すように、その全てが大日如来の子であり、「曼荼羅は宇宙的家族を表現し、大日如来は自分の外に対立者を持たない普遍的な存在といえる」と述べた。
この他、持続可能性や、多様な人々が尊重されながら共存できるインクルージョンを目指すデザインの在り方などについての議論があり、日伊友好クラシックコンサートなども行われた。