パラグアイ工芸伝える 和市出身の千森さん

パラグアイ共和国の伝統手芸「ニャンドゥティ」を日本で広めるのが使命――。和歌山市出身で大阪市在住の千森麻由さん(39)は、ニャンドゥティ講師として、大阪や京都、神戸などでのグループレッスンやオンラインでのプライベートレッスンを開いている。講師を輩出するための養成講座も開くなど「先駆者」として遠い異国の地で出合った、愛するニャンドゥティを精力的に広めている。

ニャンドゥティは、レース編みの一種でありながら、刺しゅうのように布に針で糸を刺し、織りを施し仕上げるという非常に珍しい手法の手芸で、世界で唯一、同国の小さな村、イタグラでのみ作られている。

千森さんがニャンドゥティに出合ったのは2011年。それまで和歌山市内のフレンチレストランで修業をしていた千森さんが、各国の郷土料理を巡る世界一周の旅をしていた時にパラグアイを訪れ、偶然出合った。

「色鮮やかなニャンドゥティを見た瞬間、その美しさに衝撃を受けた。まさに運命」と振り返る千森さんは、帰国後もニャンドゥティのことばかり考えていたといい、13年にパラグアイを再訪。国立学校で3カ月間、スペイン語の壁に悩まされながらも身振り手振りで技術を学び、難しいモチーフも編めるようになるなど、他の生徒らが驚くほどに上達した。

その頃、現地でできた友人から職人の高齢化や後継者不足の現状とともに、「いつかニャンドゥティがなくなってしまうのかもと考えると悲しい」という言葉を聞き、「私が何としてでも広める」と決意。趣味から普及活動という使命を背負った仕事に変わった瞬間だったという。

その後も16年まで毎年3カ月間現地に滞在し、技術を磨くとともに、どのように普及させるか試行錯誤をしてきた。最初は「ニャンドゥティはお金にならない」という職人の声を聞き、後継者不足の問題を解決しようと、現地の職人が作ったものを直輸入し日本で販売したが、うまくいかなかった。

今度は、日本人の好みに合わせて自らデザインしたニャンドゥティのアクセサリーを現地の職人に作ってもらったが、言葉の壁もあり、細かい打ち合わせが難しく、全て満足のいくクオリティーに仕上げることができなかった。

普及方法に悩んでいた時、「私もニャンドゥティを作ってみたい」という声に応える形で初めてワークショップを開催。参加者らの楽しそうな姿と「またやりたい」という言葉に、ワークショップを数カ所で定期的に開くようになり、現在の〝ニャンドゥティ講師〟に行き着いた。

19年には『はじめてのニャンドゥティ』を出版。20年には初の講師養成講座を開き、5人の講師が誕生した。うち4人はすでにそれぞれの教室を開講しており、現在も10人が同講座を受けている。千森さんは「日本の中でニャンドゥティが普及しているという実感が少しずつ出てきた」と笑顔。今後について、「伝統をただ伝えるだけでなく、どうやってパラグアイに還元できるかが次の課題」と意気込む。

ニャンドゥティを作る時間は、何も考えずに集中でき、ストレス発散にもつながるといい、千森さんは「手で作られたものの独特な魅力にふれ、豊かな時間を過ごしてもらえれば」と呼び掛けている。

グループレッスンは2時間3500円。プライベートレッスンは1時間5000円。単発も可。

詳細やレッスンの申し込みなどは「ニャンドゥティアカデミー」のホームページから。

自書と作品を手に笑顔の千森さん

自書と作品を手に笑顔の千森さん