愛されて59年 バー「ギリシャ」閉店へ

夜の社交場として59年、おいしい酒で大人たちの心を癒やしてきた和歌山市元寺町のバー「ギリシャ」が27日で閉店する。蝶ネクタイを着けバーテンダーとして店に立ち続ける店主の西浦秀夫さん(82)は、共に働き、店を盛り立ててきた妻の寿美子さん(80)が昨秋から体調を崩し、支えが必要となったため、やめる決断をしたという。長年店に通う多くの常連客からの「やめないで」との声に、「惜しまれて去るのが花やね」と西浦さんは寂しそうに笑う。

同店は、当時周辺に食堂が建ち並ぶ飲食街だった元寺町に1965年3月1日オープン。同市万町の化粧品店で、でっち奉公を終えた西浦さんは花形の職業だったバーテンダーを目指し、23歳で入店した。先輩からカクテル作りの技術を学びながら、慣れないバーテンダースーツを着て接客。「蝶ネクタイの結び方を覚えるのに1週間かかった」と振り返る。

店は当時流行していた何を飲んでも1杯100円の「100円バー」形式を取り入れ大繁盛。安くておいしい酒が飲めると、若いサラリーマンらが集まり、夕方5時になると連日満席だったという。

10年ほど続けた頃、西浦さんは店主となった。物価上昇に伴って100円バーはやめ、西浦さんがカクテルを作り、妻と女性スタッフ4人が接客。3000種類のカクテルの作り方が載っている本を参考に勉強し、独自の味を作り上げようと研究を重ねた。マティーニ、ジンフィズ、サイドカーが人気で、特にジントニックは「ここにしかない味」と客が絶賛。店の名物となった。

「作り方は秘密やけど、炭酸をシャーベット状にして作る僕のオリジナル。もう幻の味になってしまうんやね」と西浦さん。

「カクテルも『地産地消』を」と、できる限り地元農家の果物を使い、シェーカーを振ってきた。もう一つの名物は、でっち奉公していた時代に食べた絶品の味が忘れられず再現したという西浦さん特製のかすうどん。

「『おいしい』という笑顔は人の表情の中で最高にいい顔やね。僕はそれに支えられ元気をもらってきた」とにっこり。

評判を聞き、芸能人も多く来店した。中でも「みのもんたさんが来てくれた時はめちゃくちゃうれしかった」と、2人で肩を並べる写真を店内に飾っている。

毎日夕方から店に立ち、仕事を終えるのは深夜。休みは日曜と正月のみだったという。

「妻は家事と子育てをしながら店で働き、大変やったと思う。それを見ていたから、2人の娘には継がせたくなかった」

いつでも当たり前のように明かりがともり、和歌山の夜を彩ったバー「ギリシャ」。常連客の「私らこれからどこに行ったらいいんよ」という声に「また新しい明かりがともるでしょう」と笑い、「昭和、平成、令和と、いい時代、しんどい時代もあったけど続けられたのはお客さんのおかげやね。27日まで精いっぱいおいしいカクテル作って感謝の気持ちを伝えたい」と最後の日まで元気いっぱいに客を迎える。

営業は午後5時~深夜0時。日曜定休。料金は2時間飲み放題で3000円。かすうどんは500円。問い合わせは同店(℡073・432・0312)。

自慢のカクテルを作る西浦さん

自慢のカクテルを作る西浦さん