深い味わい「源五兵衛の粕漬」

スイカを連想させる「源五兵衛」
スイカを連想させる「源五兵衛」

前号より、紀州名産の小スイカ「源五兵衛(げんごべい)」を取り上げている。江戸時代から栽培が始まり「小スイカの粕漬」に加工され、現在も親しまれる源五兵衛。今週はその中身と味わいを紹介したい。

収穫当初は一般的なスイカと同様に張りのある果皮であったが、粕漬にする過程で、おにぎりのような形になる。輪切りにしてみると、中心部分を一周するように小さな種があり、これがスイカであることを明らかにさせてくれる。

源五兵衛の粕漬は、酒粕を5度にわたり浸け直して製造。これは和歌山の伝統的な粕漬(奈良漬)の作り方であるという。現在、和歌山県内で製造する業者はわずかなようで、筆者が手にしたものは県外で加工されたもの。県内で収穫された源五兵衛は、すぐに酒粕に漬け込まれ、粕漬の1次加工がされたうえで県外に出荷される。県外の加工業者で更に加工され商品となる。

一般的な漬け込みの期間は半年から1年程度とされる。伝統的な漬け込み方法である5度の浸け直しが行われているかは定かではない。源五兵衛の粕漬にはランクがあり、漬け込みの期間が浅いものは1個あたり700円前後が相場。酒粕を取り換え、長期熟成されたものは高級品として扱われる。

食してみると、コリコリとした歯応えがあり、柔らかさがなく食べ応えがある。かむごとに口いっぱいに酒粕の風味を強く感じ、若干の苦みはあるが、ご飯が進む逸品である。

時代の流れなのか、粕漬(奈良漬)特有の風味と味の濃さよりも、さっぱりとした味わいを求められる傾向も。昭和30年ごろから源五兵衛の栽培が盛んになった鳥取県では、近年、薄口しょうゆに漬け込み、しょうゆ漬けとしての販売が始まるなど、現代の消費者の嗜好に合わせた工夫が行われている。(次田尚弘/和歌山市)