財政に国民共有の理解を 安定した社会の持続のために
中学生の国会見学に出席し100名ほどの生徒の前であいさつをした際、政治に関心のある人を訊ねたところゼロでした。あと3年で有権者になることから数名は関心を持っていると思っていただけに衝撃でした。
そこで申し上げたのは、今の日本は平和で、経済的にも比較的豊かだけれども、ウクライナ国民や難民にとって政治は大問題です。政治は社会の秩序を維持し、経済の成長や所得の再配分などで社会の安定を図る、きわめて重要な役割を果たしています。日本もいつ戦争に巻き込まれたり経済的に大不況に陥るかもしれないだけに、皆さんにも政治に大いに関心を持っていただき、これからの日本を支えていっていただきたい旨のあいさつをしました。
あらためて、主権者教育の必要性を感じました。
さらに衝撃的なことは、最近の世論調査では30代の国民民主党やれいわ新選組の支持率が、立憲民主党はもとより自民党を上回り、同じ傾向が若者層で広がっていることです。ある学者によれば、従来のイデオロギーの対立ではなく、税制や社会保障制度による所得再配分の世代間格差、さらにイノベーションの遅れに対する若者世代の苛立ち、そして将来不安に基づく世代間対立と指摘されています。
確かに、今は社会や産業そして生活が大きく変化していく時期にあり、従来の考え方や手法の大胆な見直しがきわめて重要かつ積極的に取り組むべき時期に来ていると思います。
ただ、安定した社会を持続させていくには、「財政ポピュリズム」的な運営ではなく、「財政とは何か、どうあるべきか」に対する国民共有の理解が欠かせません。
財政の目的は、政府が税金や公債などの収入を適切に管理し、それを社会の発展や国民の福祉に効果的に活用することにあります。具体的には以下の3つが挙げられます。
①市場だけでは適切に提供されにくい公共サービスの提供
②所得再配分で経済格差を是正し、社会の公平性を保ち安定を維持
③景気の変動を抑え、経済を安定させるための財政政策
そして、応能負担・応益負担の原則に基づいて、以上を目的とした財政運営がなされています。それだけに、税金は社会全体のための負担という性格が強く、「税金を払っているから、平等にサービスを受けたい」という考え方は、とくに福祉や所得再分配の要素が強い分野では成り立ちません。
また、最近よく指摘される財政の大判振る舞いでは、さまざまな制度を維持することが難しく、最終的には財政破綻をもたらし社会的混乱を引き起こしかねません。物価高など変動する課題には、まずは緊急対策を行い、その上で必要な場合には制度改正を行うべきであり、その際は慎重かつ幅広い議論が必要です。ただ、財政の3つの目的のうち所得再配分については、若年層が抱く格差や不公平感への不満を踏まえた見直しの検討が必要だと考えます。
いずれにしても、限られた財源のなかで、財政の目的に沿って持続可能な財政運営を行うことが重要であることについて、国民共有の理解が必要だと思います。