官民共創のまちづくり 和歌山市×JT×トランスコスモス 【鼎談】

成長と福祉の好循環

まちづくりにおいて、行政と民間の連携はますます重要になっています。和歌山市の活性化に向けて「官民共創」の観点からどんな取り組みができるのか。尾花正啓市長、米倉健日本たばこ産業(JT)和歌山支社長、高山智司トランスコスモス上席常務執行役員の3人が、これまでの成果や未来への展望を語り合いました。

化学反応が生む新たな価値

司会 和歌山市は2025年度予算を「成長と福祉の好循環を形成する予算」と位置づけ、重要な要素に「官民共創」を挙げています。まちづくりに果たす民間の役割、官民共創を重視する理由をお話しください。

尾花 市民、民間企業、行政の3者が力を合わせることが必要です。例えば、行政だけで施設を作っても、利用されなければ意味がないので、どんな使い方をするのか最初から一緒に考えていければと思っています。
民間だけで取り組むのもまた大変で、例えば京橋に元々あった市営駐車場で屋台のイベントをやってもらい、非常ににぎわいましたが、駐車場なので、人がはみ出さないように警備をする費用がすごくかかりました。そこで、警備費用がいらないように公園化することを行政の力で実現しました。



司会 官民共創による持続可能なまちづくりについて、考えや取り組みをお聞かせください。

高山 官民共創には二つあると思います。一つはCSR(企業の社会的責任)活動で行政に協力することで、これは従来からあります。近年は、自治体や中央省庁に人手が足りず、公務員だけではできないことをアウトソースして、私たちが仕事として受けることが非常に増えています。本業でお手伝いする官民共創も大切なことです。

米倉 分煙環境の推進として、和歌山市内では和歌山城西の丸広場や道の駅「四季の郷公園」、JR和歌山駅西口などで喫煙環境を整備するお手伝いをしています。私たちが目指す「吸う人と吸わない人が共存できる社会」に近づける場所になったと思っています。和歌山駅の喫煙場所は、外側にパネルを設け、情報発信ができる仕様にもしています。
和歌山県の企業の森制度を活用し、田辺市で「JTの森中辺路」という森林保全活動を行っており、2005年のスタートから昨年で20周年を迎えました。



司会 和歌山市での官民共創による成果にはどのようなものがありますか。

尾花 例えば昨年、「和歌の聖地・和歌の浦 誕生千三百年記念大祭」が行われ、民間主導でいろんなイベントがありました。その基本には、普段から美化活動を一生懸命して、和歌の浦を守ってきた皆さんがいて、その力も非常に大きいと思います。
イルミネーションイベントの「けやきライトパレード」も大きな成果です。100社を超える民間企業から協賛金を集めてくださって、昨年は100万球を超える日本一のイルミネーションにしてくれました。
民間との化学反応がうまくいき、新たな価値を創り上げる理想的な姿になってきています。



司会 JTは和歌山市で環境美化活動に力を入れていますが、どのような取り組みですか。

米倉 2004年から「ひろえば街が好きになる運動(ひろ街)」という市民参加型の清掃活動を全国展開しています。和歌山市では毎年の「紀州よさこい祭」に併せて行っています。昨年からはJR和歌山駅で「ひろ街inJR和歌山」と銘打ち、市の皆さんと一緒に企画し、地元の企業や団体、商店街も参加し、非常に良い取り組みを立ち上げることができました。

尾花 心豊かで幸せを感じながら暮らせるまちを目指す上で、生活環境の改善は大切です。JTさんには、まちの美化活動などさまざまな社会貢献をしていただいています。これからも皆さんの活動と連携し、まちづくりを進めたいと思っています。



司会 トランスコスモスは創業者が和歌山県出身です。これまでに県内で行政と協力して行ってきた取り組みをご紹介ください。

高山 例えば和歌山県がしている、いじめや心の相談で、電話だけでなくLINEやSNSを活用したものが増えていますが、こうしたものを事業として請け負っています。
もう一つは、県が推進している「子ども食堂」の事業に寄付をし、子ども食堂を増やす事業を応援しています。私たちの会社はコールセンターのオペレーターなど女性が多く、子どもの居場所を増やすことによって、より従業員が長時間働いて会社にも貢献してもらえます。子ども食堂への貢献は、私たちの事業の成長につながり、成長と福祉の好循環ができていると思います。

尾花 成長と福祉は本当に大事なことです。和歌山市は福祉だけで競争すると財源のあるところに負けてしまいます。財源確保のために成長をしっかり確保しながら、その財源で福祉を回し、好循環に持っていくことが今後重要です。



司会 少子高齢化が進む中、子育て支援や子どもたちに関わる政策で和歌山市が重視しているものは何でしょうか。

尾花 子育て支援には、経済的な支援と、働きながら子どもを育てやすい環境づくりの両面があります。経済的支援では、子ども医療費の無償化を18歳まで段階的に引き上げ、高校卒業まで完全に無償化しました。給食費の無償化も県内でも早く実施しました。環境づくりでは、待機児童を少なくし、学童保育の充実を図ることなどを進めています。
子どもたちに関する課題、発達障害、ヤングケアラーの問題、虐待、不登校などについて、しっかり寄り添っていくことも大事です。昨年から「こども家庭センター」を設けて、一元的なサポート窓口をつくりました。アウトリーチという形で、コーディネーターが出かけていくなどしてサポートする取り組みにも力を入れています。



司会 子どもに関わる分野での社会貢献活動についての考え、取り組みなどをお聞かせください。

高山 例えば1人親の家庭では仕事が長く続けにくいということがあります。私たちは、そういう方々へのDX(デジタルトランスフォーメーション)人材育成の支援を、東京都の事業として行っています。行政である程度、人材育成の場づくりをし、私たちはデジタル人材を育成するノウハウがあるので、それを提供するという形です。

米倉 昨年、和歌山市で取り組んだ事例があります。わが社にはコーポレート部門の男女バレーボール部があり、女子が兵庫県西宮市に拠点を構えています。女子バレーボール部(大阪マーヴェラス)としての活動として、県内で初めて約150名の学生さんを対象にバレーボール教室を開きました。皆さんが選手の迫力あるプレーを見て、技術指導にも熱心に聞き入って、目を輝かせていたのを印象深く見ておりました。



司会 人口流入の増加に向け、産業振興や地域経済の活性化で重視している政策は何でしょうか。

尾花 和歌山市で住んで働いてもらえるのが理想的です。市内には優れた製造業もあり、DXなどデジタル関係の企業も進出しています。若い人が和歌山で働ける産業構造にしたいと思っています。
また、県外の大学へ進学する人が多いので、大学誘致を進めてきました。実は昨年、誘致大学の卒業生の県内就職率が84%になり、県内就職者の約8割は女性でした。女性が大都市に出てしまうことが危惧されていますが、和歌山市は大学誘致の効果もあり、定着率が非常に良くなっています。



司会 DXのお話がありましたが、デジタル技術の活用にどのような可能性を感じていますか。

尾花 デジタル技術は社会を変えると思います。和歌山市でも、ドローンを使った買い物や災害時の避難所への物資輸送など、防災、医療など多様な分野でのデジタル技術の活用に取り組んでいきたいと思います。
また、テレワークが進んでいくと思います。どこに住んでいても仕事ができる形になれば、誰もが環境のいいところで暮らしたい。その場所が地方です。住みたくなるまちづくりが大事です。

高山 デジタルの力を使うと、本当に住んでいる場所は関係ありません。少子化などの社会課題がありますが、私たちにとって、社会課題に対してデジタルで応えていくことがビジネスチャンスであり、成長のエンジンだと思います。

米倉 東京や大阪など大都市にリソースが配分され、注目が集まりがちですが、和歌山での森林保全活動のように、地方でしかできない、地方発で変革を起こせることが多くあるはずです。デジタルの力が、こうした取り組みを瞬時に臨場感をもって全国へ展開することを可能にすると考えます。



司会 まちのにぎわいを創出し、市外から訪れる観光客などを増やすには、どのようなことが重要でしょうか。

尾花 外に出たくなる、歩きたくなるまちが大事です。官民共創の中で、イルミネーションや和歌山城でのドローンショー、京橋の屋台村など、新たな価値が生まれています。
交通アクセスも大事です。高齢者は特に運転免許返納などでいろんな場所へ出かけにくい。地域のさまざまな拠点を結ぶ交通に力を入れることは、にぎわいにもつながります。
観光では、大阪・関西万博も始まり、インバウンドを含めた観光客が和歌山市にも来てもらえるようにしていきたい。また、和歌山市は県全体で見ると熊野や高野などへの入り口に当たります。これを生かし、市内に滞在しながらいろんな所を巡るゲートウェイ観光も進めていきたいと思います。



司会 企業として地域の活性化にどのように関わっていくお考えですか。

高山 和歌山市は非常にまちが綺麗で快適です。環境整備は行政でやっていただき、人が集まる所は商売も盛んになりますので、私たちで繁盛させ、納税し、にぎわいをつくるというのは民間の役割だと思っています。行政と民間の役割分担で、より和歌山を活性化していければと思っています。

米倉 JTは企業パーパスとして「心の豊かさを、もっと。」を掲げています。和歌山市には多くの方が生活し、観光客も多く来ます。それだけの人がいれば、多様な価値観が存在するということですので、お互いを大切にし、心の豊かさを持って生活できる和歌山市になればと考えており、官民共創で貢献していきたいと思います。