開始20年、新事業へ 県のゴールデンキッズ

国際舞台で活躍できる競技者の育成を目指し、20年にわたり行われてきた和歌山県の「ゴールデンキッズ(GK)発掘プロジェクト」が、本年度末の17期生の修了で区切りを迎える。8月には、1期生で元レスリング日本代表の吉田隆起さん(28)がパリ五輪金メダリストらと共に17期生を指導し、同プロジェクトは、修了生が現役生の育成に関わるまでに実績を重ねてきた。蓄積した経験やノウハウを活用し、いま新たな育成事業への移行期を迎えている。
GK発掘プロジェクトは、県内の小学校3・4年生の中から優れた運動能力を持つ子どもたちを見いだし、GKと認定し、発達段階に応じた育成プログラムによって、五輪などで活躍できる競技者へと育てることを目的としてきた。
2006年度の開始以来、16期生まで計598人が修了し、現在6年生の17期生30人を最後に新規募集を停止。24年度からは新たなタレント発掘・育成事業の「県スポーツマッチングプロジェクト~やっCha(チャ)る!!~」がスタートしている。
新事業への移行は、GK発掘プロジェクトで培った成果を、より多くの子どもたちのために活用することが主眼。8月3日に行われた吉田さんらによるGK17期生の指導は、新事業へと引き継がれる同プロジェクトの成熟を象徴する取り組みともなった。
1期生が指導者に 金メダリスト来和

吉田さんは湯浅町出身で、県立和歌山北高校時代の15年、全国選抜大会、インターハイ、国民体育大会で全て優勝する高校レスリング三冠王を達成。21年には男子79㌔級の日本代表として世界選手権に出場した。
現在は自衛隊体育学校で後進を指導している吉田さんの人脈から、24年パリ五輪女子76㌔級金メダルの鏡優翔さん(23)、23年U―23世界選手権女子50㌔級金メダルの伊藤海さん(23)が来県し、共に指導するスペシャルプログラムが実現した。
3人はまず、子どもたちの質問に答えながら講話。いつ頃から五輪を目指そうと思ったかとの質問に鏡さんは、小学1年生から五輪の金メダルを夢として口にはしていたが、「夢と目標は全然違う。夢はかなえられたらいいなと思えるもので、目標は絶対に達成させるもの。私が目標に変えたのは中学3年生、高校生になる前」と語った。
緊張で思うように結果が残せないとの悩みに伊藤さんは、以前は緊張は悪いことと考えていたが、緊張は試合に向けて気持ちができていることだと捉え方を変え、「緊張を受け入れることができ、良いパフォーマンスができるようになった」と紹介した。
アスリートとして生活の中で大切にしていることについて鏡さんは、運を味方にすることを意識しているとし、靴やスリッパをそろえる、ごみを拾うなどの行動を例に挙げ、「10人が見逃すことを11人目の自分はやる。きっと積み重ねでいい運を引き寄せ、自分が良かったなと思える方向にもっていけると思っている」と答えた。
伊藤さんは「あいさつや礼儀をしっかりすることで、応援してくれる方たちがついてきてくれる。応援してもらえる人が多いほどパワーになるし、恩返ししたいという気持ちでさらに頑張れる」と強調。吉田さんは、どのスポーツをどんなレベルで目指すにしろ、「勝ち負けはおのずとついてくる。勝負の世界で生きるための過程の全部を楽しんでほしい。きつい練習も講話も、自分に必要なものだと思って素直に取り入れることは、自分の強みになる」と後輩たちに話した。
競技体験では、子どもたちは膝に付けたリボンを取り合うなどしてレスリングの基本的な動きを学び、吉田さんらにタックルを受けてもらった。鏡さん、伊藤さんは、体の動かし方が身に付いていくスピードなど、GKの身体能力の高さに驚きを見せた。
子どもが選ぶ支援へ 成果を新事業に活用
GK発掘プロジェクトの最後の年度、1期生が指導者としてふるさとで成長した姿を見せ、後輩たちの指導に当たったことに、県スポーツ課はプロジェクトを続けてきた大きな意味を感じており、17期生にも刺激に満ちた時間となった。
新たな育成事業の「やっChaる!!」は、対象学年を中学2年まで、定員も拡大し、子どもたち自身が選ぶ興味のある競技とお薦めの競技を体験、測定し、自分に合った競技との出合いを提供する。
事業名には、より多くの子どもにChance(チャンス)を広げ、可能性へのChallenge(チャレンジ)を応援し、競技をChange(チェンジ)する機会も提供しながら、和歌山からChampion(チャンピオン)を目指すとの意味が込められている。
同課の秋田智哉主査は「子どもたちを適性ある競技にいざなってきたGK発掘プロジェクトで培ってきたものを、より多くの子どもたちのために活用したい。これまでの『子どもを選ぶ』事業から、『子どもが選ぶ』支援事業への転換になっている」と話す。
和歌山のより多くの子どもたちが、好きで適性のあるスポーツとの出合いを通して成長しくことを目指し、今後も取り組みは続く。