伝統を重んじ表現開拓を 水甕紀北支社が60周年

和歌山市の歌人・井谷まさみちさん(88)が主宰する短歌結社「水甕(みずがめ)紀北支社」の創立60周年を記念する歌会が21日、紀の川市貴志川町の大池荘で開かれ、会員23人が節目の年を祝った。
「水甕」は1914年に尾上柴舟(おのえさいしゅう)を中心に発足し、短歌雑誌『水甕』を創刊。個性を尊重する自由な精神のもと、昭和期にかけて多くのモダニズム歌人を輩出している。110年を超えた今も活動は続き、全国に支部がある。同支社は1965年に井谷さんが主宰し発足した。
日本歌人クラブ名誉会員、県歌人クラブ名誉会長などを務める井谷さんは同市貴志川町出身。
那賀高校在学中に俳句を始め、文芸クラブの部長を務め、和歌山大学では俳句研究会の会長に。「父親を亡くし、その悲しみを俳句では表現できない」と25歳から短歌を詠み、新聞に投稿したところ連続して入選。水甕のメンバーで歌人の加藤将之と出会ったことから28歳で同支部を結成。毎月1回、岩出市の岩出地区公民館で短歌を指導、発表する活動を続けてきた。現在は60~100歳の会員64人がいる。
会の冒頭で、井谷さんが「皆さんのおかげで続けてこられた。今後も伝統を重んじながら自由で新しいものを目指していきたい」とあいさつ。会員から井谷さんと、裏方として同支部を支える妻のみさをさん(88)に花束が贈られた。
記念の歌会では会員56人が事前に提出した短歌を、作者を伏せて司会者が読み上げ、参加者が良かったと思う10首を選び投票した。
3位は和歌山市の中尾加代さん(63)の「合わす手が朴の花にも見える母ひょいと百歳跨ぎそうです」。2位は紀の川市の三木たか子さん(78)の「QRコード使いて答えよとネット社会は老いに詰め寄る」。1位は井谷さんの「転び落ちさうにころがる露の玉里芋の葉のゆりかごに乗る」。
最後に全首の作者が明かされ、日高川町の原見慶子さん(100)の短歌「記憶とはおぼろなるもの記録とは確かなるもの日日に努めむ」が紹介されると、会場は拍手に包まれた。
一首ずつ参加者が感想を述べ、作者が意図を説明し、井谷さんが一首ずつ講評。終了後は懇親会で交流を深めた。
紀の川市の山田暁美さん(77)は「この会は和気あいあいで楽しくて毎回休まずに出席している」と話し「大池荘は50年前に結婚式を挙げた思い出の場所。そこで記念の年を祝えてうれしい」と笑顔。
同市の赤井順子さん(80)は「同じ指導者で60年続けてこられたことは誇りであり名誉だと思う。家族のような仲間たちと短歌を通じずっとつながっていたい」と話した。