「呼び上げ地蔵」目指して 海南で避難訓練

高台の地蔵を目指す住民ら
高台の地蔵を目指す住民ら

国連が定めた「世界津波の日」の5日、和歌山県海南市の上神田自治会(大上敬史会長)は、同市井田地区の熊野古道汐見峠で、江戸時代に住民を津波から救ったという「呼び上げ地蔵」の伝承を活用した避難訓練を実施。地域住民らが防災への意識を高めた。

伝承によると、1854年11月5日、安政南海地震の発生から1時間後、同市日方に大津波が襲来。暗闇の中、逃げ惑った住民は、地蔵のある方角の空に5色に光る雲を見つけ、そこから「こっちへ来い」と声が聞こえたといい「地蔵さまが呼んでいる」と光を目指して避難し、難を逃れたとされている。

同自治会は、2018年から呼び上げ地蔵の伝承を生かして訓練を実施。8年目となった今回は、地蔵を管理する同地区、地蔵寺の土山明祐住職や地域住民ら約20人が参加して行われた。

夕刻に起きた安政南海地震に合わせ、日が暮れた午後6時ごろ、訓練が実施された。雨が降る中、ヘルメットをかぶり、ヘッドライトや懐中電灯を手にした住民らは、大上会長(66)の「津波が来るぞー、逃げろー」との呼びかけに続き、海抜7㍍の始点から、海抜20㍍にある地蔵を目指した。

かっぱや長靴を着用し、傘を差した参加者は「ガードレールがあって良かった」「坂だけれどきつくない」などと話しながら、暗くなった道を約250㍍上り、当時の避難行動を追体験した。

地蔵に到着した一行は、手を合わせて犠牲者の冥福を祈り線香を手向け、土山住職が語る伝承に聞き入った。

大上会長は「多くの人が参加してくれ、年々防災意識が高まってきていると実感している」、参加した今井絹代さんは「雨だったけれど、万が一の際はそんなこと言っていられない。良い訓練になったと思う」と話した。

訓練後、日方地区集会所では、消費期限が近くなった備蓄しているアルファ米の保存食を使い、五目ご飯やチキンライスに調理する炊き出し訓練も行われ、住民や参加者に150食が提供された。

また、試食中には住民に安政南海地震の恐怖を知ってもらおうと、大上会長ら「南海地震ブラザーズ」による漫才も紹介された。