県職員ボクサー星さん引退 日本連盟理事に就任

現役最後の全日本選手権で戦う星さん㊧(星さん提供)
現役最後の全日本選手権で戦う星さん㊧(星さん提供)

40歳までアマチュアボクシングのリングに立ち続け、昨年11月で25年に及ぶ競技人生に幕を下ろしたレジェンドボクサーの星大二郎さん(40)=和歌山県庁スポーツ課主査=が、6月に日本ボクシング連盟の理事に就任した。現役引退からわずか7カ月での起用の背景には、229戦190勝の輝かしい競技実績に加え、ボクシング振興への貢献、スポーツを通じた人間形成に力を注ぐ星さんの信念と行動がある。

兵庫県神戸市出身の星さんは、ボクシングをしていた兄の影響で、中学2年生のころからジムに通い始め、高校から本格的に試合に出るようになった。東京農業大学時代には全日本選手権でライト級3連覇の偉業を達成し、2008年北京五輪の代表候補となったが、予選を突破することができず、22歳で一度グローブを置いた。

その後、星さんと同じく北京五輪出場を果たせなかった同期の村田諒太さんが、12年ロンドン五輪のミドル級で金メダルを獲得する姿を目の当たりにし、「くすぶっていたものと、変なねたみの感情が入り混じっていた」という。

和歌山で情熱再び 年齢上限まで戦う
星さん㊨の引退パーティーに駆け付けた村田さん(星さん提供)
星さん㊨の引退パーティーに駆け付けた村田さん(星さん提供)

転機となったのは、「紀の国わかやま国体」(15年)を控えた和歌山から声がかかり、14年に県庁に採用されたこと。15年に30歳で出場した国体では、大半が年下の選手の中、準優勝を果たした。

再び火が付いたボクシングへの情熱は高まり、県内の高校生や大学生の競技人口が減少していく中で、「子どもたちに競技者の背中を見せたい」と、23年に全日本選手権への再挑戦を決意。同年は3位となり、翌24年は17年ぶりの決勝まで進み、あと一歩の準優勝だった。

昨年の全日本は、出場資格の上限となる40歳を迎えた最後の挑戦。11月29日の準決勝には、村田さんとロンドン五輪バンタム級銅メダルの清水聡さんの同期の盟友2人も応援に駆け付けた。結果は2―3の判定で惜敗し、最後まで戦い切った現役ラストマッチとなった。閉会式では、日本ボクシング連盟の「会長特別賞」を受賞し、後輩たちの前でスピーチの機会も得た。

2月7日には、和歌山市内のホテルで引退パーティーが行われた。星さん本人は内容を事前に知らされていなかったというサプライズ開催で、村田さんや清水さんをはじめ、星さんを慕い、応援してきた県内外のボクシング関係者ら約70人が集まり、テンカウントなどでレジェンドをたたえた。

応援される選手に スポーツの持つ力

星さんは自身の哲学として「フルタイム・グッドゲーム」という言葉を掲げている。激しく戦うコンバットスポーツだからこそ、試合終了(フルタイム)後には互いの健闘をたたえ、感謝を伝えようという考えだ。そのためには、懸命に競技に向き合い、相手をリスペクトすることが欠かせない。

和歌山での第二の選手人生を経て、星さんの競技観は大きく変わったという。以前は「オリンピックに出られなかった理由、言い訳ばかりを探していた」が、今は「多くの人に支えられ、ボクシングに育ててもらった。スポーツの力は、競技を通じて人間力だったり、社会性だったり、何を得るかにあると思う。強いだけでなく、人に応援され、愛される選手でなければ、成績を残してもその人に残るものは少ない」と感じている。「特に和歌山に来てからは本当に人の温かみに囲まれて、人に応援される人間であったら、それこそ勝ちだと思うようになった」と語る。

競技との出合いを 次代の選手育成へ

引退後の星さんは、これまで以上に次世代のボクサー育成に力を注ぐ。県ボクシング連盟副理事長、関西連盟理事・強化副委員長に加え、6月21日には日本連盟の理事に就任。競技人口拡大に向け、子どもたちがボクシングに出合う仕掛けをつくりたいと思っている。

星さんは県庁スポーツ課で、県内の子どもたちが興味のある競技とお薦めの競技を体験することを通して、自分に合った競技との出合いを提供する「県スポーツマッチングプロジェクト~やっCha(チャ)る!!~」の推進などに取り組んできた。スポーツ行政の経験も生かし、日本連盟理事として中央競技団体と地方の現場をつなぐ役割も目指している。

県連盟の遠藤富士雄理事長(79)は「地方から日本連盟の理事に推されるのは大変なこと。和歌山のボクシング界にとっても非常にうれしい。誠実に一生懸命に仕事をする人なので、信頼されている。選手として超一流の実績を残しており、理事としても立派になってほしい」と星さんに期待する。

県内のボクシング界は、高校にクラブがあるのが和歌山工業のみで、競技者が所属するジムも数カ所しかなく、危機的な状況にある。

県連盟は、毎週2カ所でジュニアボクシングスクールを開き、競技者を目指す小中学生の発掘に取り組む他、応援してくれる地元企業のロゴを入れたオリジナルTシャツの製作など、地域を巻き込んだプロモーション活動も展開している。

星さんとは県庁、県連盟の同僚で、14年仁川アジア大会フライ級銅メダルの林田翔太さん(34)は、星さんを「一方的に知っている憧れのレジェンドだった」と語る。共に県のボクシング振興を担う仲間として日々を過ごす今、「強いだけではなく、人を引き寄せる魅力がある人。唯一無二の存在。競技から育成、連盟の裏方まで全部やってくれている」と尊敬と信頼を寄せる。

「スポーツの価値を高め、県民の皆さんに力をもたらすようなボクシング界を目指したい」と星さん。ボクシングへの感謝を胸に、レジェンドは新たな挑戦の舞台でも輝く。

和歌山市で開かれた引退パーティー(星さん提供)
和歌山市で開かれた引退パーティー(星さん提供)