減少する狩猟文化の担い手 ハンタールポ㊤
農作物の鳥獣害対策で捕獲されたイノシシやシカなどの肉が「ジビエ」として食材に活用され、猟期以外でもジビエ料理を提供する飲食店などが増え、より県民にも親しみの深いものになりつつあるが、狩猟の免許取得者は高齢化に伴って減少しており、全国的にハンターは「絶滅危惧種」だという声も聞かれる。確かな腕を持つハンターは地域の狩猟文化の数少ない担い手でもあり、継承が課題となっている。県内の熟練ハンターを取材した。
平成27年度の県内のイノシシによる農作物被害額は1億6984万5000円円。被害額が大きく、増加傾向にある地域の一つが有田川町で、1953万8000円に上った。要因の一つにハンターの高齢化があるといわれている。
こうした現状にあって、同町では深瀬俊一さん(64)を中心に高い捕獲率で活動をしているハンターグループがある。
昨シーズンの猟期後半を迎えた1月中旬、深瀬さんは広川町の阪和自動車道広川インターチェンジに近い柳瀬山を狩猟の場に選び、平均年齢約70歳のメンバー4人と、飼育している猟犬ゴマとムクを連れて集まった。
ふもとの山肌に新しい足跡がついていれば、イノシシが付近の寝床周辺にいると予測できるため、メンバーは毎回の集合前に足跡を探し、その情報を基に作戦会議を開く。
この日は深瀬さんが足跡を発見した場所から犬を山に放すことに決まり、尾根付近に適度な間隔を空けて3人、そして、尾根づたいの谷川に1人のハンターを配置した。
首に無線と鈴をつけたゴマとムクを山に放すと、メンバーはそれぞれの持ち場につき、トランシーバーに入ってくる鈴の音や吠え声で山中の様子を推察する。
ふもとで待機していた深瀬さんは、次第に激しくなる吠え声を頼りに、しばをかき分けて山中に入り、尾根でゴマとムクが追い立てているイノシシを発見し、発砲。弾は惜しくも外れ、イノシシは山の斜面を逃走し谷川へと逃げ去った。
谷川で身を隠すように待機していた永田佳造さん(80)は、すぐそばでピチャピチャという水の音を耳にし、「イノシシが逃げてきた」と即座に察した。息をひそめながら少し待ち、川から上がってくるイノシシに至近距離で発砲し、見事に命中した。
銃声が山中に鳴り響いた後、永田さんが捕獲に成功したことをトランシーバーで聞いた深瀬さんは、絶好のチャンスを逃さずイノシシを仕留めた永田さんに声を掛け、「何年ぶりかな。良かったね」とたたえた。
永田さんの持ち場は、サッカーに例えるとゴール前でシュートのチャンスを狙うトップの攻撃陣。狩猟を行う山をフィールドと捉え、効率よく捕獲する作戦を立て、銃の腕も確かな深瀬さんは司令塔兼エースだ。
「狩猟は第一に猟欲のある犬、第二に銃の腕前、第三に山をよく知っていること」と話す深瀬さんの狩猟歴は44年。この日は早朝から昼過ぎまでにイノシシ2頭、午後からシカ1頭を捕獲した。
高い捕獲率を誇る深瀬さんらのチーム戦は、11月から翌年3月までの猟期中、雨天でない限り毎週末に行い、成果を上げ続けている。
(続く)