逆転の発想で産業を興す 新宮に水産加工の集積を
和歌山県経済の冷え込みは厳しい。 政治家にとって重要課題は、 和歌山等の地方経済活性化を進め、 新たな雇用と所得を創造し、 地方に活気と希望を取り返すことである。
「私はこんなに予算を取ってきました」 と自己アピールする政治家を時々見かけるが、 「国から予算を持ってくる」 という典型的な中央依存の発想で真の地方経済の活性化には効果がない。 そもそも国の予算は政治家個人が 「持ってくる」 ようなものではなく、 色々な経緯や働き掛けがあって決まるもので、 それを個人の手柄のように粉飾して顕示するのは政治家としていかがかと思う。
私自身、 和歌山県経済の立て直しのために、 いろいろな取り組みを行ってきたが、 中々決定打が出てこないのが実状である。 県下の各市町村の地域活性化策の切り札は 「企業誘致」 だが、 成果が上がっているとはいえない。
そんな中、 私が理事長を務める近畿大学農学部の水産経済学担当の若手准教授から和歌山でも最も苦しい状況にある新宮・東牟婁地域の活性化に関して、 面白い構想が上がってきた。 「企業誘致」 からの逆転の発想で、 「地域から産業を興す」 というアイデアである。 構想を聞いて、 私は理事長として直ちにゴーサインを出した。
新宮港には企業誘致を期待して広大な埋め立て地が造成されたが、 一向に企業は進出していない。 その用地を活用し、 輸出型の水産冷凍加工施設を作る。 というのが今回のアイデアである。 和歌山でも最も交通の便が悪く、 条件不利地と見られている新宮地域だが、 水産加工・輸出という観点に立つと、 実は非常に有利なポジションにある。
まず周辺沿岸には養殖業者が多数存在し、 大量の魚をコストをかけずに集積することができる。 また既存の水産加工施設が鮮魚を中心とした国内向けであることと、 有力漁港には大型の旧式の設備が存在し更改にコストと時間がかかるため、 日本の太平洋側には世界的な衛生基準をクリアした最新の冷凍加工施設はないため、 新宮港に新型施設を作れば、 海外向け冷凍加工品輸出を独占的に実施することができる。 また近くには近大水産研究所があり、 輸出先の味覚に合わせて冷凍加工しても美味しく食べることのできる養殖魚の開発も可能である。 そして新宮港湾は最新の設備を備えており、 大型船を横付けしてそのまま製品の積み卸しができる。 さらに新宮港には税関があるので、 輸出手続きも簡単にできる。
こういった長所を生かして、 水産加工施設を作り、 欧米やアジア地域に水産加工品を輸出していこうというプロジェクトに近畿大学と新宮市、 そして新宮港埠頭㈱が一体となって取り組んでいくこととなった。 将来的にはこの加工施設を軸に、 他の食品加工施設も集積させ、 日本における食品輸出の中心地にしていきたいと夢を膨らませている。
このように、 大企業にお願いして進出してもらうのではなく、 ましてや国にお願いして予算をもらうのでもなく、 地域の特性を生かした産業集積地を自ら創り上げていくというこの新しい取り組みが、苦境に喘ぐ他の和歌山県市町村のヒントになってくれればありがたい。