和歌山県のお茶栽培と食文化 八十八夜、収穫期を迎える
「夏も近づく八十八夜」。2日、茶摘みの童謡でなじみのある八十八夜を迎え、各地で新茶の収穫が始まっている。
先日、筆者が静岡県島田市のお茶農家を訪れた際、お茶の苗木をいただいた。聞くと、和歌山県にもお茶の産地があり栽培が可能であるという。かつては家庭栽培も一般的であったという歴史もうかがい、はるばる和歌山まで静岡茶の苗木を持ち帰ってきた。鉢植えにして約1カ月。自宅の庭ですくすくと育っている。
和歌山県におけるお茶の生産量は18㌧で全国生産量の約0・02%(平成21年農林水産統計)。ブランド名としては「川添茶」「音無茶」「色川茶」などがあり、総称として「紀州茶」とも呼ばれる。生産地はそれぞれ、白浜町、田辺市本宮町、那智勝浦町色川地区。昼夜の温度差や奇麗な水や空気がお茶の栽培に適している。
特徴としては生産量のほとんどが一番茶で量産用の二番茶などは収穫されない高級茶。「川添茶」は徳川頼宣公に献上されたこともあるという。「音無茶」は収穫された約7割が県外へ出荷されるなど人気が高く、音無茶を名乗ることができるのは一番茶のみ。熊野の伏拝地区や川湯地区で栽培され、熊野本宮大社で品質向上を祈願する「新茶祭」が行われるなど地域で愛される銘茶だ。
これらのお茶は和歌山県の食文化とも深い関係がある。近年は食べる機会が少ない「茶がゆ」の存在だ。かつてはお茶の木を家庭栽培し番茶に仕上げる家庭が多く、それらが家庭の味となっていた。静岡のお茶農家の方が筆者にお茶の苗木を持たせてくれた理由が分かる。地域の産物と食には必ず深い歴史がある。薄れかけていたお茶栽培と茶がゆの文化を再認識する機会になった。
(次田尚弘/静岡)