【AR】紀州の忍術書 英研究家が講演

 紀州藩に仕えた名取三十郎正澄が著した日本三大忍術伝書の一つ『正忍記』について学ぶ講演会が7日、和歌山市吹上の県立博物館で開かれた。同書を英訳したイギリス人の日本軍学研究家、アントニー・クミンズさん(36)が、実演を交えて同書に記された「忍びの術」などを紹介した。

 正忍記を読む会(山本寿法会長)が主催。歴史や文化でまちおこしに取り組む市内の各グループなどが協賛し、約80人が参加した。

 開会あいさつで山本会長は「正忍記は忍術書だが、コミュニケーションや決断の在り方など現代に生きる内容が含まれている」と紹介。同博物館主任学芸員の前田正明さんは、正澄が紀州徳川家初代・頼宣から3代に仕えたことなど、時代背景を解説した。

 クミンズさんは、『正忍記』は忍びについての正しい情報を伝える数少ない史料であると説明。忍びについて広まってしまっている間違ったイメージの例として、忍びは武士の下の階級ではないこと(侍も忍びをした)、忍術書には忍びが手裏剣を使う記述はほとんどないこと、黒い覆面はしていないことなどを挙げ、聴衆から驚きの声が上がった。

 忍術は軍学の一領域であり、クミンズさんは、正忍記など正澄の著書に記された名取流の忍術を実演を交えて紹介。言葉で巧みに情報などを引き出す「奪口(だっこう)」の会話術、場所や状況によって使い分けられた10種類もの歩き方、敵地への侵入の方法、偵察術などが登場した。

 講演の他、忍者クイズや協賛の各団体による活動アピールなどもあり、参加者は紀州に伝わる知られざる歴史、文化への関心を深めていた。

『正忍記』と忍びについて話すクミンズさん

『正忍記』と忍びについて話すクミンズさん