スポーツ伝承館5周年 アスリートの夢発信

和歌山市本町のフォルテワジマ3階にある「わかやまスポーツ伝承館」が開館5周年を迎えた。県ゆかりのスポーツ選手に関する展示や、和歌山のスポーツの歴史を紹介する全国的にも珍しい施設。来館者数が延べ19万人を記録するなど、郷土のスポーツ振興に寄与してきた。江川哲二館長(53)は「これからも子どもたちの夢を育み、スポーツの魅力を発信していきたい」と話している。

同館は平成23年4月5日、紀の国わかやま国体・大会に向け、県民のスポーツに対する機運を高め、中心市街地を活性化させようとオープン。

当初は、ふるさと雇用再生特別基金を活用し、実行委員会が運営。翌年からはNPO法人「わかやまスポーツ伝承館」が、県の委託を受けて運営してきた。

江川館長は開館を約半年後に控え、当時の責任者として採用。選手に展示品借り受けの交渉をするなど準備を進める中で、忘れられない出来事がある。

3月11日、数人の選手から展示の貸与品を受け取ろうと、関東方面を車で回る中で、東日本大震災の大きな揺れを体験した。道路も混乱し、携帯電話もつながらない状態。やっとの思いで予定先を回って和歌山に戻り、約200点の展示品をそろえ、無事開館の日を迎えた。

開館以来、周囲を驚かせたのは、メダルに触れられるという画期的な展示。江川館長は「市民がメダルに自由に触れられる施設は、おそらく全国どこにもない」と胸を張る。

子どもも大人も、誰もが一度は触ってみたいと思うメダル。「重さや大きさ、質感、触ることで感じ取ることもたくさんあるはず」、そんな思いから企画したものだった。

ミュンヘン五輪の柔道で金メダルを獲得し、高校の教員だった野村豊和さんに相談したところ「ケースに入れてるのをただ見るだけでは分からん。自分も教え子には触らせていた。メダルはずっと家に眠っていたので、そんな企画をしてくれてうれしい」と快諾。その後、多くの五輪選手が趣旨に賛同し、メダルを貸してくれた。

同館では土日に限り、県内選手が獲得したメダルに直接触れることができる。「自分もメダルが欲しい」「すごい、本物や」――子どもたちは瞳を輝かせ、メダリストとの距離が一気に縮まる。

館内ではこの他、甲子園で実際に使われていた選手用ベンチに座れ、県内高校野球のユニホームも着用でき、来館者に好評。アイスホッケーなど、マイナーとされる競技団体も積極的に紹介してきた。江川館長は「今後はスポーツをしていない人にも、少しでも興味を持ってもらえるような取り組みをしていきたい」と話し、趣向を凝らしたスポーツセミナーや、出張展示なども企画中という。

「僕が大きくなってメダル取ったら、ここに展示してくれる?」「分かった、おいやん借りに行くわ」――そんなやり取りを交わした子どもたちも多い。

「夢のような話ですが、例えば、五輪に出場した選手が、なぜオリンピックを目指したかを聞かれて、ここで実際にメダルを手にしたことがきっかけになって、となれば最高ですね」

スポーツの魅力を伝える館内で江川館長

スポーツの魅力を伝える館内で江川館長