伊勢路旅(25)三重県多気郡多気町
前号まで大台町の産業や文化について取り上げてきた。今週は大台町の北隣にある、三重県多気郡多気町を紹介したい。
多気町は三重県の中央部に位置する町で、人口は約1万4000人。かつてから、伊勢神宮へ続く「伊勢本街道」、「和歌山街道」、「熊野街道(伊勢路)」が通る交通の要所として発展してきた。近年は大手家電メーカーの製造工場が操業するなど発展がめまぐるしい。
海に面しておらず、高い山がないことから、水不足による干害が起きたため、各地にため池が造られ今もなおこの地域の農業を支えている。ため池の一つ五桂池(ごかつらいけ)は紀州藩が築堤したもの。江戸時代に造られた三重県内で最大のため池で、周囲3・75㌔、面積19・5㌶の広さを誇る。
台風被害や干害に悩まされていた地域の有志らがこの地を治めていた紀州藩田丸郡の奉行へ、かんがい用ため池と新田開発を嘆願。それを受け1672年に築堤工事を着工しのべ15万人以上が動員され7年の歳月をかけ完成したという。
池の築堤により住民25世帯が移転を余儀なくされ「池の完成後、間もなくして大粒の雨で満たされたさまを、地域のためを思い土地を手放した住民らの涙が表している」といった地域の民話が今も語り継がれている。
五桂池からの安定した水の供給が後押しとなり、紀州藩から「紀州みかん」が移入され、昭和20年代にはミカン栽培が盛んになった。しかし、昭和30年代になり、ミカンの価格が低迷したことから、農業体験ができる施設をつくる構想が生まれ、ミカン狩りやイチゴ狩りが楽しめ、また、動植物と触れあえる施設が、昭和59年に「五桂池ふるさと村」としてオープン。ほのぼのとした観光名所として親しまれている。
(次田尚弘/多気町)