山田猪三郎が殿堂入り 国際航空連盟が決定
国産飛行船の初飛行に成功した、和歌山市出身で日本航空界の先覚者・山田猪三郎(1863~1913)が、国際航空連盟(FAI)の国際気球委員会(CIA)が定める功労者殿堂入りを果たした。猪三郎のひ孫で、猪三郎が創業した㈱気球製作所(東京)の豊間清社長(63)は「皆さまのお力添えやご支援があったから。関わってくださった多くの方に感謝します」と喜びを語っている。16日には市内で記念シンポジウムが開かれる。
猪三郎は、同市新堀七軒丁に紀州藩士の子として生まれた。大勢が犠牲になった明治19年の串本沖ノルマントン号事件をきっかけに、現在の救命胴衣の先駆けとなるゴム製浮輪と防波救命器を製造。日本初の円筒型係留気球も発明し、明治43年、エンジン搭載の山田式1号飛行船を完成させ、国産として初めて東京上空を往復飛行した。
CIAは、気球飛行船などの航空機を統括する唯一の国際機関。毎年、ノミネートされた中から総会の投票によって生存者1人、故人1人の殿堂入りを決めている。今回の生存者での殿堂入りは、昨年、日本の佐賀からメキシコまでガス気球で横断し、滞空時間と距離の世界記録を樹立した、アメリカ人パイロットのトロイ・ブラッドリーさんが選ばれている。
豊間社長は、9月末にニューメキシコ州で行われるセレモニーに出席予定。殿堂入りを記念して、同所の気球博物館に、和歌山の山田猪三郎顕彰会が製作した伝記絵本の他、「山田式1号飛行船」のミニチュアモデルなどが展示される予定という。
和歌山では、有志によって同市和歌浦の高津子山のふもとに顕彰碑が建てられたが、草木に覆われて土台も傷みが激しく、功績は永く忘れられていた。これでは猪三郎に申し訳ないと、市民団体「南葵史談会」会員の小林護さん(81)が呼び掛け人となり、平成22年に顕彰会が発足。猪三郎の没後100周年記念事業として市民に寄付を呼び掛け、顕彰碑の耐震補強工事を実施。慰霊祭を執り行い、伝記絵本『山田猪三郎物語』を出版するなど、猪三郎の業績や精神を後世に伝える活動を続けてきた。
今回の知らせに、小林さんは「私財を投じて研究や発明に情熱を注いだ姿や、『人を助けたい』という思いからの行動力は素晴らしい。地元から起こった活動が報われたようで大変うれしい」と喜んだ。
気球製作所は、気象観測用ゴム気球を製造し、気象庁や防衛省、宇宙航空研究開発機構(JAXA)など、世界各地の機関で活用されている。豊間社長は「曽祖父の口ぐせは『報国』だったと父から聞かされました。その精神を引き継ぎ、社会のお役に立てるよう、努めてまいります」。また「和歌山とつながりができたことは、私にとって無形の財産。いろんな方々と関わりを持てたのも、曽祖父のおかげです」と和歌山の猪三郎ファンにメッセージを寄せている。
記念シンポジウムは豊間社長を迎え、16日午後1時半から同市本町のフォルテワジマ6階で開かれる。
顕彰会のメンバーでもある、神保紀代子さんが代表を務める「Jプロジェクト」が主催。当初からイベントを予定し、準備を進める中で届いた吉報に、神保さんは「ふるさとの偉人に再び光を当てたいと企画していたところに、タイミングが重なって驚いています。子どもたちの夢のためにも、ワクワクするようなことを伝えていけたら」と話している。
小林さんと、地元メディアとして活動に関わった、元わかやま新報記者の乗杉千佳さんの顕彰事業を振り返るトーク、伝記絵本著者の福島節子さん、御前陽子さん、山本祐佳さんによる話などがある。
定員60人。参加費は200円(資料代)。問い合わせは小林さん(℡073・445・0494)。