麦の郷創設40周年 障害者に寄り添う歩み
さまざまな障害のある人々が働き、生活を送る福祉施設「麦の郷」(和歌山市岩橋、田中秀樹理事長)が3月で創設40周年を迎える。昭和52年に、身体・知的の重複障害者向け施設「たつのこ共同作業所」として出発して以来、さまざまな施設を開設し、平成7年には全国初の精神障害者福祉工場を創設するなど、幅広い悩みに対応できる、総合リハビリテーション施設の実現に努力してきた。活動の歩みや障害者を取り巻く社会の現状などを聞いた。
麦の郷は社会福祉法人「一麦会」が運営する支援施設の総称で、現在は同市や紀の川市に約30施設を展開している。
和歌山盲学校の教員を務めていた田中理事長(64)や生徒の保護者らは、障害者が卒業後に就職などで差別を受ける状況に心を痛め、受け入れ施設の開設を決意。昭和52年に「たつのこ共同作業所」が和歌山市東長町に誕生した。準備に当たっては、同44年に設置された、ゆたか共同作業所(愛知県)を視察するなどし、参考にした。
開設からしばらくは行政の認可を受けられず、運営資金確保のために廃品回収を行った他、6畳一間の長屋で共同作業を強いられるなど、運営は苦労の連続で、当時の従業員の中には家族から退職を勧められた人もいたという。
その後、同63年に現在地に移転し、平成7年には、全国初となる精神障害者福祉工場「ソーシャルファーム・ピネル」を開設。施設の命名に当たっては、「治療の原点は自由にある」として18世紀末にパリの精神病院で精神病患者を初めて鎖から解放した精神科医フィリップ・ピネルの業績をたたえ、その名前を施設名に取り入れた。
麦の郷が精神障害者についての取り組みを始めた当時を知る関係者によると、昭和60年ごろの国内における精神病院の平均在院日数は、全国平均が500日強に対し、県内は900日を超えており、病室の窓には鉄格子がはめられるなど「合法的な虐待」といってもおかしくない状態だったという。
現在の麦の郷は、不登校やひきこもりの子どもたちを支援する施設、身寄りのない高齢者を対象としたグループホームなども運営しており、約220人のスタッフが約2000人の利用者に対応している。
共同作業所や「ソーシャルファーム・ピネル」では、約10種類のクッキーやパン、せんべいなどの食品や、機械に付着した油を拭き取る布「ウエス」を製造している他、病院で使用する白衣やおしぼりのクリーニングなども行っている。