トランプ氏に警戒 北方領土大会で手嶋氏
「第36回北方領土返還要求県民大会」が4日、和歌山市手平の和歌山ビッグウエーブで開かれ、約500人の参加者が北方領土返還に向けて機運を高めた。外交ジャーナリスト・作家の手嶋龍一さんの講演があり、「東アジアのなかの日本を考える」と題し、発足当初から国際的な波紋を広げている米トランプ新政権などについて語った。
7日の「北方領土の日」を前に、北方領土返還要求運動県民会議(会長=浅井修一郎県議会議長)が主催。同会議の創立35周年を記念し、例年より規模を拡大して開かれた。
浅井会長に続いてあいさつした県選出の鶴保庸介沖縄北方担当大臣は、昨年9月に北海道根室市を訪問した際、元島民から領土問題の解決を訴えられたと述べ、「改めて返還に向けた決意を強くした。安倍総理も自分の代で解決する決意だと言っている。全国民的な運動にするため、一層のご協力をお願いしたい」と呼び掛けた。
長年にわたり同会議の運動に協力してきた団体への表彰や、昨年に根室市を研修で訪問した和歌山市立西脇中学校の生徒による報告の後、手嶋さんの講演が行われた。
手嶋さんは、北方領土問題について考える際の注意点として「日本が世界の中でどんな位置にいるのかを知ることが大事」と強調。トランプ米大統領が大統領令の発令を通じて「米国第一主義」の政策を次々と実施している点を懸念し、「これまでの世界のリーダーの座を降りようとしている。恐ろしい結果を招く危険性がある」と警戒感を示した。
大統領選での発言と実際の政策は異なるという見方は甘いと強調し、相手国に対する厳しい交渉ぶりで知られるウィリアム・ハガーティー氏の駐日大使起用やメキシコに製造拠点を置くトヨタ自動車への容赦ない批判などを例に、トランプ大統領が日本に対して厳しい姿勢を取ることを覚悟する必要があると訴えた。
日露関係については、昨年12月の首脳会談で両首脳が共同経済活動に向けた協議開始で合意したことを評価。「楽観はできないが、始めてみなければ出口もない」と話した上で、日本メディアの取材姿勢を「両首脳と周辺に対する取材がしっかりできていない」と批判した。
手嶋さんは、返還後の北方領土に日米安全保障条約が適用され、米軍基地が設置されることをロシアは危惧していると解説。係争地域での軍事衝突に関して、対日防衛義務を定めた同条約第5条を基に米軍が出動するかどうかについては、尖閣諸島を例に解説し、2013年の米中首脳会談でオバマ大統領が「領土問題について、どちらかの立場は取らない」と発言したことを「国際法の一般原則に逃げている」と強く批判。3日にマティス新国防長官が尖閣諸島への同条約適用を明言したが、「トランプ大統領自身が言うまで安心できない」と強調し、10日の日米首脳会談に注目するよう呼び掛けた。
また、現在の東アジア国際政治における緊張要因として台湾問題を挙げ、「アメリカが戦略的な曖昧さを残すことで紛争を回避してきた。トランプ大統領の登場で変化が起きる可能性があり、台湾海峡危機だけは外交で防がないといけない」と強調した。