家康紀行(36)駿府城公園「紅葉山庭園」

 前号では地域の歴史的価値の発掘に、市民やファンとの一体感を持ちながら進められている、駿府城公園の「天守台発掘調査」を取り上げた。今週は同公園内で平成13年に開園した紅葉山庭園を紹介したい。
 紅葉山庭園は同公園の北東部に位置する。かつて存在した大名庭園をもとに、駿河国の名勝を表現したいわば平成の庭園。
 玄関門をくぐり最初に出迎えてくれるのが「里の庭」。牡丹や梅林、花菖蒲が来園者を優しく包む。
 先へ進むと「海の庭」。箱根越えの石畳を連想させる通路を越えると伊豆の岬を表現した池が広がる。なだらかに池の淵を覆う扇状のカーブは三保の松原であるという。
 次に「山里の庭」。サツキの低木は茶畑を連想させ段々に築かれた山の頂上には、芝に囲まれた富士山が静岡の象徴として存在。展望スペースからは、まるで茶畑の中から安倍川を遠くに望むよう。
 最後に「山の庭」。庭園を高所から眺めながら細道を進むと涼しげな二段落ちの滝に出合う。茶室も整備され、下足のまま入れる立札席での呈茶コーナーでは、御用茶として扱われた足久保煎茶や、やぶきたの品種で知られる日本平の煎茶、安倍川周辺で覆いを掛けて栽培した茶で今川の時代から生産されてきたという本山抹茶、玉露の三大名産地といわれる朝比奈地域で収穫された玉露など、お茶処・静岡ならではの数々のお茶と和菓子を風光明媚(めいび)な庭園内で頂くことができる。
 かつての駿府城主・徳川頼宣が紀州に入り和歌山城に築いた「紅葉渓庭園」と比べ、年月が育む重厚さは少ないが、静岡の風景を凝縮した開放的な空間は現代の庭園として魅力的。和歌山県民が見慣れた紅葉渓庭園の祖はきっとここにある。
(次田尚弘/静岡市)