石ノ森章太郎の原画 元アシスタントが公開

『サイボーグ009』『仮面ライダー』などで知られ、25日に生誕80周年を迎える漫画界の巨匠・石ノ森章太郎(1938~1998)。そのもとでチーフアシスタントを務めた和歌山県紀美野町の大瀬克幸さん(69)が24日から2月28日まで、和歌山市古屋のティーズカフェで石ノ森から譲り受けた原画を初めて公開している。大瀬さんは「無駄な線が一切なく、一本の線で表現される遠近感や深い味わいを楽しんで」と話している。

石ノ森の節目の年にあたり、原画の公開を決意。展示後は宮城県石巻市の記念施設、石ノ森萬画館へ寄贈する。

大瀬さんは福岡県出身。高校時代、石ノ森のファンだった友人の影響で漫画を描くようになった。2年生の頃は毎月のように石ノ森に自作のイラストを添えてファンレターを送るうち、石ノ森から声が掛かり、3年生の夏休みに1カ月住み込みで修行。昭和42年、高校卒業後に東京のスタジオでアシスタントとして働くことになった。

いざ制作現場に飛び込んでみると仕事は多忙で、一日の睡眠時間は3時間ほど。一般の漫画家は1カ月で週刊誌や月刊誌の制作200㌻という中、石ノ森は500㌻から600㌻を締め切りを遅らすことなく描き続けたという。

後に『キューティーハニー』『デビルマン』を手掛ける永井豪らと肩を並べて仕事をし、程なくしてチーフになった。石ノ森の「弱音を吐くな。何事も一人前になれないぞ」との言葉に奮起しながらも、あまりの忙しさに約9カ月で退職することに。その後、住友金属工業への就職で和歌山に移り住んだ。大瀬さんは「短い期間でしたが、人生の中で最も濃い時間。掛けてもらった言葉や教わったこと全てがその後の自分の肥やしになっています」と振り返る。

今回展示するのは、『秘境三千キロ』の表紙や『三つの珠』『虹の子』の一場面を描いた原画など15点。石ノ森が12~13歳の頃の夏休みに描いたバンビの絵、石ノ森と下積み時代を共に過ごした「トキワ荘」メンバーの園山俊二、藤子不二雄の原画も並んでいる。

「漫画家はよく、小説家や映画監督、カメラマンなど七つの能力が必要だと言われますが、石ノ森は全ての分野で優れた才能の持ち主だったと思います」と大瀬さん。

「『3年後、5年後に世にこういうものを出したい』という構想が常にある人でした」
譲渡された資料の中には、石ノ森が創刊した肉筆の回覧誌『墨汁一滴』の第4巻も。長く関係者にも存在が知られず幻とされていたといい、今回原画と共に寄贈する。

大瀬さんは「止まっているものでも生き生きと動きがあるように見せる表現が魅力。今は背景にスクリーントーン(網掛けなどの画材)を貼りますが、当時は全て手描きでした。手抜きのない仕事を見てほしい」と話している。

午前11時から午後5時まで。月、火、第4日曜は定休。入場は無料だが1ドリンクの注文を。駐車場がないため公共交通機関の利用を呼び掛けている。問い合わせは同店(℡073・460・4715)。

「手抜きのない仕事を見て」と大瀬さん

「手抜きのない仕事を見て」と大瀬さん