有吉佐和子と和歌山 娘の玉青さんら語る
和歌山県和歌山市出身の作家で、県内を舞台とする『紀ノ川』や『華岡青洲の妻』などの作品を残した有吉佐和子(1931~84)の魅力を語るトークイベント「『有吉佐和子と和歌山の文学』~歴史と風土と人と~」がこのほど、同市湊本町の市民図書館で開かれた。有吉の長女で大阪芸術大学教授の有吉玉青さんや、有吉の作品に詳しい近代文学研究者らが出席。集まった約100人を前に、娘から見た母・佐和子や作品に対する思いなどを語った。
和歌山市は、有吉佐和子が暮らした東京都内の邸宅を市内に移築・復元する計画を進めており、有吉と和歌山の関係を多くの人に知ってもらおうと、トークイベントを企画した。
基調講演に続いて行われたトークセッションでは、玉青さんと皇學館大学特別教授の半田美永さん、近代文学研究者の岡本和宜さんの3人が、有吉の作品や人柄などについて意見を交換。玉青さんは印象深い作品に『香華(こうげ)』を挙げ、「作品に出てくる母と娘の関係が自分の親子関係を予見しているようで印象に残っている」と語り、「若い頃に書いた作品は行動力のある主人公を描いていて、自分の中にある母のイメージと近い」と話した。
岡本さんは有吉が作品の中で領土問題としての竹島(島根県)の存在にふれていることを紹介。「ジャーナリストのような姿勢があり、ルポの要素もある」と解説した。
玉青さんは娘から見た母の印象について、「病弱で一つ作品を書けば入院するなど家にいないことが多く、さみしく感じることもあった」と幼少期を振り返り、「時間がたって、あんな作品を書いていたら家のことはできないよなぁと思うようになった。いつでもいろんなことに一生懸命な人だった」と話した。
基調講演では半田さんが「紀伊半島・和歌山の風土と文学―有吉佐和子の作品を中心に―」と題して話した。近代化の過程で主な交通手段が船から鉄道に転換したことで紀伊半島が先進地から後進地になったと指摘した上で、「近代に見られる科学・物質万能主義や人間中心の考え方に対し、有吉は作品の中で自然の声に耳を傾けるよう警鐘を鳴らした。和歌山には近代化によって忘れられたものが残っており、有吉の作品を通じて、和歌山の文化を再確認してほしい」と呼び掛けた。
参加した市内の女性(47)は「有吉さんの作品は物事を深く掘り下げているところが好きです。和歌山の文化をもっと大事にしようと思いました」と話していた。