価値に驚きの見学会 県庁本館建築80周年

 和歌山県教育委員会と県建築士会は15日、国の登録有形文化財である県庁本館(和歌山市小松原通)の建築80周年記念見学会を、かつての竣工式の日に合わせて開いた。268人が参加し、専門家が優れた耐震性、凝った意匠や装飾、歴史的な逸話などを解説した。

 現在の県庁本館は1938年に完成した3代目の庁舎。鉄筋コンクリート造一部鉄骨鉄筋コンクリート造の4階建て、竣工時の延べ床面積は1万344・58平方㍍。戦時中は市内の約6割が焼失する中、アメリカ軍の空襲にも耐えた。

 戦前の県庁舎が現役で使われているのは和歌山、滋賀、愛知など9例あり、和歌山は中でも価値の高い建造物であるとして、県建築士会は2012年に県庁本館の価値や歴史などをまとめた書籍を出版するなど、その魅力を発信する活動を続け、13年の文化財登録につながった。

 見学会は2回に分けて行い、20人ほどのグループに分かれ、県教委文化遺産課職員や同会会員が解説を務めた。

 建設当時、県は強度に優れた建築物を目指し、県の松田茂樹技師が基本設計を行い、鉄筋コンクリート造の第一人者であった東京帝国大学の内田祥三(よしかず)教授が監修を務めた。外観の解説では本館の優れた耐震性が紹介され、戦後の1964~68年に建てられた東・北別館、県警本部庁舎がいずれも現在の耐震基準を満たさず、大規模な改修を要したのとは対照的に、ほぼ改修する必要がなかったと説明されると、参加者は驚きの声を上げた。

 知事室では、戦後間もない47年6月に来県した昭和天皇が宿泊した歴史や、空調設備がない時代に夏の風通しの良さを考え、南西の隅に知事室を設けたことなどの説明があった。

 この他、最も格式が高い部屋とされる正庁、県議会議場、建物中央の階段ホールなどを巡り、海南市黒江の漆塗りを施した木材や石膏の繰形などの凝った装飾、紀の川市出身の画家・彫刻家、保田龍門によるレリーフなどを見学した。

 解説を担当した県建築士会の中西重裕副会長(59)は「県庁本館はシンプルで堅実な造り。今見ても良いデザインであり、現役で使われているのは素晴らしいことです。きょうは多くの方が参加され、熱心に聞いていただき、関心の高さに驚きました。地元の県庁のそれぞれの場所にある物語を知り、誇りを感じてもらえたのではないかと思います」。参加した和歌山市秋月の中島恵美子さん(70)は「和歌山に住んで50年になりますが、県庁の中は初めて入りました。彫刻など内装が奇麗で、解説も分かりやすく、とても良かったです」と話していた。

階段ホールにある保田龍門のレリーフを見学

階段ホールにある保田龍門のレリーフを見学