94歳で日本新2種目 鉄人スイマー桑山さん
和歌山の水泳界に「鉄人」と呼ばれるスイマーがいる。和歌山県和歌山市鷹匠町の桑山菅子さん(94)は、2月末に同市で開かれた「第5回秋葉山マスターズ水泳競技大会」で、女子50㍍・100㍍背泳ぎの2種目で日本新記録を樹立。生き生きと水泳を楽しむ桑山さんは「今では生活の一部。健康でいられるのは水泳のおかげです」と笑顔で話している。
その一かき一かきの腕の動きはとてもしなやかで、年齢をまったく感じさせない。この日もいつもの練習を終えた桑山さんは「何かきで泳ぎ切るか目安があって、いつも意識しています。練習の時から、もっとキックもしやなと思うんです」と笑顔を見せた。
串本町生まれ。幼い頃から陸上競技、テニスなどで汗を流した。本格的に水泳を始めたのは53歳の時。45歳で夫を亡くし、家にこもりがちだった生活を改めようと健康のために習い始めた。
以後、バタフライで日本記録を出すなどマスターズで好記録を連発し、国際大会にも出場。84歳で日本スイミングクラブ協会のベストスイマー賞を受けた。90歳まで日本舞踊で鍛えた足腰には自信がある。
そんなパワフルな桑山さんだが、87歳の時に自宅で転倒し、脊柱管狭窄症の手術を経験。一時は寝たきりになるとまで言われたが、3カ月の入院を経てプールでの歩行リハビリなどに励み、2年後には泳げるようになるまで回復。担当の医師も驚くほどだったという。
先日の大会では、ことし95歳を迎えることから95~99歳グループで出場し、50㍍を日本記録より0・64秒早い1分18秒41、100㍍を4秒近く上回る2分51秒91で泳ぎ切った。
過去にはターンで失格になった苦い経験もあり「ターンで失格せえへんか心配でしたが、たまたまうまくいって。ゴールのタッチをした後、みんなが駆け寄って抱きついてきてくれて、(日本新記録を祝う)花火が上がった掲示板を見た時は、うれしかったです。まさかこんなに記録を縮められるとは思いませんでした」と振り返る。
今も週に2日パルポート紀の川(和歌山市栄谷)に通う。毎回約600㍍を泳ぎ、丁寧なストレッチを欠かさない。
パルポートで桑山さんを指導する一人、阪口和人さん(41)は「とにかく前向き。楽しみながら貪欲に取り組む姿勢が素晴らしく、『水泳界の鉄人』です」、コーチで競技者でもある中尾真紀さん(47)は「常に目標を持ち、競技者としても、そうありたいと憧れるような存在。他府県のトップレベルの選手からも尊敬されています」と話す。
桑山さんの挑戦はまだまだ続く。7月に名古屋で開かれるマスターズの大会に、50㍍クロールで出場予定という。
長生きの秘訣(ひけつ)を「わりと楽観的。何でも良い方へ解釈するんで、それがいいのかも」と桑山さん。「みんな大事にしてくれて、水泳を通じて孫のような世代の若い人たちと一緒にいろんな話ができて楽しい。これからも無理をせずに続けていきたい」と意欲をみなぎらせている。