家康紀行(68)名古屋めしの代表格「きしめん」

 前号では、地域が育む食文化として知られる「名古屋めし」の歴史を取り上げた。
 代表例として挙げられる鶏料理やみそをベースにしたカツや煮込みうどん、養殖されるウナギや近海で取れるエビなど、ご当地が誇る食材が採用されるケースが多いが、平たい麺が特徴の「きしめん」は何が起源なのか。今週はその歴史を紹介したい。
 きしめんは、幅広で平たい形状のうどんとして「平打ちうどん」とも呼ばれ、幅4・5㍉以上、厚さ2㍉未満の帯状に成形したものとしてJAS(日本農林規格)の表示基準で定められている。群馬県では「ひもかわ」、岡山県では「しのうどん」として全国各地で親しまれている。
 名古屋限定の食材ではないきしめんであるが、名古屋めしで最も歴史のあるもの。その由来は尾張徳川家の時代にさかのぼる。
 諸説あるが、一つは「雉(きじ)肉」を入れた「きじめん」として尾張徳川家のみが食することを許された特別なものであったというもの。もう一つは、紀州徳川家が尾張に土産として持参した麺を「紀州麺」として尾張徳川家が喜び、その名を短縮してきしめんと呼ばれるようになったとか。
 庶民に普及した理由は、雉肉ではなく油揚げを使えば庶民が食べてよしと藩主が認めた、あるいは、面積が広く早くゆでられることから燃料代を節約できるようにと倹約のために推奨された、濃厚な味を好む地域であり表面積が広い麺はつゆの乗りが良くなる、など、ご当地らしい理由の数々。
 元々の起源がどこにあるのか、今となっては特定できないが、徳川家に関係することに違いはなさそう。名古屋めしの代表格であるきしめんをぜひご賞味あれ。
(次田尚弘/名古屋市)