「消えずの火」守る 不動炭を高野山に納入
弘法大師が開いた真言密教の聖地、和歌山県高野山奥之院の燈籠堂で1000年近く燃え続けているといわれる「消えずの火」――。その火種となる炭に、海南市孟子の不動谷で焼かれた「不動炭」が使われている。NPO法人自然回復を試みる会ビオトープ孟子(北原敏秀理事長)が製造し、昨年4月から燈籠堂に納めており、その総量は500㌔を超えた。
同NPOは、里山の生物多様性を保全し、次世代に伝えようと活動しており、2001年から不動谷に炭焼き窯を構え、不動炭事業部のメンバーが炭を焼いている。不動谷には弘法大師ゆかりの不動尊が祭られており、窯は参道の終点近くにある。
同事業部立ち上げ時からのメンバー、海南市野上中の住野琇明さん(80)は年に4、5回、墓参りで奥之院を訪れており、「消えずの火」のことは「自分も炭を焼いているだけに気になっていた」という。16年秋、奥之院の管理にあたる関係者から、職人の高齢化により炭の仕入業者が廃業し、頭を悩ませているのを聞いたことをきっかけに、不動炭を納入する話が持ち上がった。
燈籠堂は弘法大師の弟子、真然大徳が最初に建立し、その後1023年(治安3)に藤原道長によってほぼ現在と同じ大きさの堂が建てられた。燈籠でいっぱいの堂の中心で輝くのが「消えずの火」で、高野山で入定し永遠に生きているとされる弘法大師の生命のシンボルであり、その火と火種の炭は絶えることなく燃え続けている。
不動炭には良質のクヌギが使われている。窯の中で赤く高温になった木を取り出し、灰をかけて急激に冷やして作る白炭と、時間をかけて冷ましてから取り出す黒炭の2種類があり、高野山には黒炭を納めている。
住野さんらが高野山に最初に不動炭を届けたのは2017年4月。約120㌔を納め、僧侶からは「火付きが良く、火持ちもする、ずっしりと重い良質の炭」と高い評価を受けた。
原木のクヌギは、住野さん、土橋清さん(68)、榎晃秀さん(62)らメンバーが、紅葉した葉が落ちる11月末から翌春にかけて約4カ月で伐採している。
山から切り出したクヌギは1㍍ほどの長さにそろえ、窯の中へぎっしりと詰め、窯の入り口で薪を燃やし続けて熱を加え、2~3日蒸し焼きのような状態にする。煙突から出る水蒸気や煙の温度が80度になり、ツンとした匂いがしたら炭化が始まった合図。完成の目安となるのは、温度計が300度を示し、匂いがなくなることだという。「見極めはとてもデリケートです」と住野さん。窯の口を完全に閉じ、数日間かけて冷ます。
8月28日、焼き上がった炭を取り出す日を迎えた。天候不順で今回の作業はやや遅れたが、メンバーは取り出した炭を丹念にたわしで磨き、25㌢の長さに切りそろえ、無事9月7日に180㌔を納入した。奥之院納所(なっしょ)心得の大谷和信さんは「こちらの要望に応じて上質な炭を納めていただき、大変ありがたい」とメンバーに感謝を伝えた。
住野さんらは「炭焼きは厳しい自然と向き合うつらい作業も多いが、高野山に納めることがモチベーションになっている」「窯で寝ずの番を終えた日の朝、小鳥の鳴き声を聞くと本当に癒やされる」などと達成感を込めて話していた。
同事業部では炭焼きに携わる人を募集している。問い合わせは榎さん(℡080・6125・6928)。