呼び上げ地蔵を再現 津波の日に避難訓練

 「世界津波の日」の5日、和歌山県海南市井田地区の汐見峠で、江戸時代に住民を津波から救ったという「呼び上げ地蔵」の伝承を活用した避難訓練が行われた。住民ら約20人は、夕刻に起きた安政南海地震に合わせ、日が暮れて暗くなった道を高台の地蔵を目指して上がり、当時の避難行動を追体験。地蔵前では犠牲者を追悼した。 

 1854年11月5日、安政南海地震の発生から1時間後、大津波が同市日方に襲来。逃げ惑った住民は山中で輝く光を見つけ、光を目指して難を逃れた。生存を喜び合った住民は、夜が明けて発見した地蔵の姿に「こっちへ来い」と導いてくれたとして、感謝を語り継いでいる。

 同地区上神田自治会の大上敬史会長(59)はこの伝承について「光っていたのは先に避難した住民のたいまつや、ろうそくの火だったのではないか」と推測。避難の率先者がいたとの思いから、伝承を後世へ継承したいと考えている。

 訓練には地蔵を管理する同地区の地蔵寺の住職、土山明祐さんをはじめ、地域住民が参加。ヘルメットをかぶり、たいまつを手にした人を先頭に、大上さんの「津波が来るぞー、逃げろー」との呼び掛けに続いた。地蔵に到着した一行は、手を合わせて犠牲者の冥福を祈り、大上さんが語る伝承に聴き入った。

 土山住職は「これを機会に津波の恐ろしさを再認識し、普段から地蔵にお参りしてもらえたら」、参加した名高英子さん(94)は「大上さんを幼い頃から知っています。自治会の会長としてしっかりと良い訓練をやってくれてありがたいです」と話していた。

たいまつに続いて坂を上がる住民ら

たいまつに続いて坂を上がる住民ら