ベートーベン自筆譜も 南葵音楽文庫の企画展

和歌山県立博物館(和歌山市吹上)の夏休み企画展「南葵音楽文庫の至宝―楽譜でたどる西洋音楽の歴史―」が25日まで開かれ、紀伊徳川家16代当主・徳川頼貞(1892~1954)が莫大な費用を投じて収集した同文庫の資料の中から、ベートーベン自筆の楽譜など貴重な54件が展示されている。

約2万点に上る同文庫は現在、読売日本交響楽団が所蔵し、2016年に県に寄託され、県立図書館と博物館が管理している。本年度中には蔵書のデータベース化が完了し、グランドオープンを予定している。

今回の展示は、ルネサンスからバロック、古典派、ロマン派に至る16世紀から20世紀初期の作品の楽譜が中心で、西洋音楽の歴史をたどることができる。

ベートーベンの作品では、「諸国の民謡集」の中のロシア民謡「可愛い娘さんが森にゆき」を編曲した自筆譜や、「歓喜に寄す」の合唱付きで世界的に知られる交響曲第9番の初版楽譜(1826年)が並ぶ。

この初版は、テンポを示すメトロノーム記号の指示をベートーベン本人から受けないで出版社が印刷したもので、翌年の増刷版からは作曲者が指示したメトロノーム記号が入っているため、最も早い段階の印刷楽譜であることが分かる。

バッハが存命中の1747年に刊行され、世界で十数点しか残されていない「クリスマスの讃美歌『高きみ空より我は来たりぬ』によるカノン風変奏曲」の初版楽譜や、ヘンデルによって記されたと伝えられる、通奏低音演奏の手引きの文書もある。

リヒャルト・シュトラウス「アルプス交響曲」の楽譜は、日本とアメリカでの初演に使われたものであることが分かっており、頼貞が親交のあったプロコフィエフから献辞付きで贈られた楽譜も見ることができる。

同館の竹中康彦学芸課長は「希少性の高い自筆や筆写の楽譜に加え、印刷された楽譜の中に、作曲者が生きていた時代のリアルタイムのものがあることも貴重です」と話す。

同展ではさらに、頼貞が1925年に開いた南葵音楽図書館で掌書長(主任司書)として28年から32年の閉館まで勤めた喜多村進が残した、頼貞の手紙や写真などの資料も展示。喜多村は和歌山市出身で、東京で島崎藤村や田山花袋(かたい)らに学んだ文学者で、後に県立図書館司書となり、県の文芸活動のリーダーとしても活躍した。

午前9時半~午後5時(入館は4時半)。月曜休館。25日午後1時半から、学芸員による展示解説がある。入館料は一般280円、大学生170円、高校生以下と65歳以上は無料。問い合わせは県立博物館(℡073・436・8670)。

徳川頼貞が収集した貴重な楽譜が並ぶ

徳川頼貞が収集した貴重な楽譜が並ぶ