孫と共にゴール ジャズマラソンで川上さん
先月末、和歌山県和歌山市で行われた「和歌浦ベイマラソンwithジャズ(ジャズマラソン)」の2㌔のラン。大勢のランナーがゴールする中、ほぼ最後尾、ディズニー映画の主人公姉妹の衣装で、孫の池田雪乃さん(26)と手をつなぎ、笑顔でフィニッシュしたのは同市湊の川上しげ子さん(75)。大病を乗り越え「心強いサポーターがいたから走り切れた」と笑顔。人生の折り返しを迎えて以降、ジャズマラソンはいつも家族の思い出と共にあった。
出場は今回で7度目。60歳の還暦を機に「何かに挑戦したい」と参加したのがきっかけ。仮装をすると普段の自分とは違う気分。沿道の声援を受けながら走るのが楽しく、ジャズマラソンはいつしか家族挙げての一大イベントになっていった。
実は、これまで6回のラン全てで伴走してきたのは、雪乃さんの妹の和恵さん(20)。ことしも一緒に走る予定だったが、仕事の都合で参加できず急きょ、これまで裏方で支えてきた雪乃さんが代走を務めることに。雪乃さんの参加は小学生の時以来だった。
毎年、長女の知子さん(51)、雪乃さんが中心となり衣装を準備。当日まで走る2人には内緒で、スタート前に会場で発表するのがお決まり。初参加での、くまのプーさんをはじめ、アフロヘアにチャイナ服、サンタクロース、魔女、着物姿と、毎回趣向を凝らしたコスチュームで大会を楽しんできた。
転機となったのは70歳。頭部に、皮膚がんの一つで悪性度の高い血管肉腫が見つかった。抗がん剤の副作用や放射線治療で食事もままならず体力が衰える中、同時期に左目に網膜剥離を発症。そんな状況でも、ジャズマラソンへの参加は諦めなかった。2015年、71歳での挑戦は家族も心配したが気力を振り絞って完走。結婚50年の金婚式、偶然にも大会と同じ日だった72歳はウエディングドレスで。薬の副作用で髪が抜け、この頃からはウイッグをつけるようになっていた。
「ことしも完走できて良かった」――。ここ数年は、そんな思いを一年ずつ積み重ねてきた。視力が低下し、足もとはおぼつかず真っすぐ進むのもやっと。ことしは雪乃さんと手をつなぎ、励まし合って止まることなく走り抜いた。雪乃さんは「妹の分までという思いでしたが、無事に完走できほっとしました。おばあちゃんと一緒に仮装して走れて楽しかったです」と笑顔で話す。
前向きでポジティブ思考。心が沈む時期もあったが、マラソンへの思いが励みになった。「がんになったからといって、めげることはない。病気になったからこそファイトが生まれ、ジャズマラソンのおかげで前向きになれました」とほほ笑む。不思議なことに今では、がんは消えてなくなったという。
大会では沿道の声援がうれしく、他のランナーや福祉団体との交流も励みになる。写真撮影をしたり「また来年も会いましょうね」と声を掛け合ったり。
初参加の頃、5歳で一緒に走った和恵さんも、20歳になった。「あの頃は私が小さな手を引っ張っていたのに、今では組む腕がしっかりとたくましくなり頼もしいですね」と感慨深げ。
「今まで病気知らずでしたが、がんになったおかげで、みんなの親切や病気の人の心が理解できるようになりました。ジャズマラソンでいろんな体験ができ、たくさんの物語ができて幸せです」
ゆっくりながら、夫の秀福さん(77)との早朝の散歩が日課という。ジャズマラソンは当初、80歳までの参加が目標だったが、体力の衰えを感じ「走るのは、ことしで最後」と決めて臨んだ。唯一心残りなのは、これまで共に感動を分かち合ってきた和恵さんと走れなかったこと。
「健康が続けば、今度は2人の孫に両腕を組んでもらってゴールするのもいいですね」
新たな目標ができ、まだまだフィニッシュラインへの走りは続く。