現代版枯山水の映像金賞 ガラス作家西中さん

和歌山県和歌山市出身のガラス造形作家・西中千人(ゆきと)さん(55)が手掛け、京都市左京区の古刹・法然院に恒久設置されているガラス枯山水「つながる」の制作過程や、込められた哲学などを紹介するコンセプト映像が、ドイツ・ハンブルグで開かれた国際映像祭「2020ワールド・メディア・フェスティバル」で金賞を受賞した。リサイクルガラスを使い、持続可能な社会の重要性を提言しており、日本文化を土台とした新たなアート空間がヨーロッパで高く評価されたことを、西中さんは喜んでいる。

西中さんは和歌浦で生まれ育ち、薬剤師の資格を取得したが、薬科大学在学中に出合ったガラス造形に心引かれ、カリフォルニア芸術大でガラスアートと彫刻を学んだ。作った器を壊し、ガラス片を継ぎ合わせる「呼継(よびつぎ)」の技法による作品などを発表し、2008年度和歌山市文化奨励賞、11年度大桑文化奨励賞などを受賞している。

ガラス枯山水「つながる」は、さまざまな大きさのガラスのオブジェを、法然院のかやぶきの山門に続く参道沿い約40㍍にわたって配置した、現代版の枯山水庭園で、梶田真章貫主の協力で実現。340年の歴史があり、文豪・谷崎潤一郎や哲学者・九鬼周造らが境内に眠る寺院に誕生したアート空間は、伝統的な日本文化と現代が融合し、全身の感覚に訴えかけてくる新しい景色となっている。

オブジェは、ガラス瓶メーカーの日本耐酸壜工業㈱との共同研究により、使用されたガラス瓶を回収、分別、洗浄、再溶融して制作。約2年をかけ、昨年5月に設置された。

テーマは「循環する命とつながっていく宇宙」。宇宙の中で、地球に暮らす人や鳥、虫などあらゆる生命はDNAを次世代につなぎ、新たな命へと循環していく。ガラスの主成分の二酸化ケイ素は地球の地殻を形成する重要な物質であり、西中さんは、いわば地球を形作るガラスもまた、生まれ変わっては循環していくものと考えている。

オブジェには、完全に溶融させず、元の瓶の形状が分かる状態で使われているガラスもあり、西中さんは「生まれ変わる前の記憶も残したかった」と話す。

コンセプト映像は「team TANIYON」の西岡眞博さんがディレクターを務め、制作した。鳥の声や水音など自然の音が響く空間に並ぶオブジェを映し出し、使用されたガラス瓶がリサイクルされ、アートへと生まれ変わっていく光景が描かれる。命も資源も循環し、つながっていくことが、ナレーションを一切使用せず、静かに、また雄弁に表現されている(https://www.youtube.com/watch?v=PGx2Ki8KUNc)。

ワールド・メディア・フェスティバルは、企業映像や教育番組などを対象とした国際コンペティション。今回は32カ国から795点の応募があり、コンセプト映像は「テレビ・企業メディア賞 広報・芸術部門」で金賞の栄誉に輝いた。

西中さんは「アートの社会的役割は変わってきている。持続型社会を目指す提言、命も資源もつながっているというストーリーを分かっていただけてうれしい」と受賞を喜び、作品は「まだ完成ではない」という。オブジェはやがて苔むし、庭全体は姿を変えていく。「自分が死んだ後の未来にもストーリーを伝えてくれる作品になる」と話し、今後、多くの人が法然院を訪れ、ガラス枯山水の空間を体感することを願っている。

ガラス枯山水と、西中さんの創作活動への思いは、海外向けのNHKワールドのテレビ番組「Core Kyoto」で紹介されており、番組ホームページで見ることができる。

 

西中千人さん