赤はな先生 副島賢和さんに聞く
自分は自分のままでいい 大人が堂々と助け合おう
新型コロナウイルスの流行により、人と人との接触が制限される状態が続き、教育現場はとりわけ大きな影響を受けている。昭和大学大学院准教授の副島賢和さんは、病院内学級での病弱教育に長く携わり、「赤はな先生」として親しまれながら、病気をはじめとする多様な不安を抱える子どもたちに向き合い続けてきた。コロナ禍を生きる子どもが直面している課題や、子どもに接する大人に今求められていることなどを聞いた。(写真は副島さん提供)
――コロナ禍の影響で特に子どもたちにとって大きいと思われるものは。
大人が我慢し、頑張っていると、子どもは基本的により一層我慢し、頑張ろうとする。「大人がこんなに大変なんだから子どもは我慢しなさい、頑張りなさい」というメッセージを送られている子どもたちは、かなりストレスがたまっている状況だろう。
今、病院の中に出入りしていると三つのすごく心配なことがある。一つは、精神科に通う子ども、原因の分からない痛みや発熱などを抱える子どもが増えている。二つ目は、自殺をする子どもたちが増えている。
もう一つは、感染予防のために病院の中に学校の先生が入れず、教育を受けられない子がいる。
東日本大震災で被災した福島や宮城では、後に不登校やいじめ、万引などの行動が増えた。それは子どもたちの「助けて」というサインだと思う。大人は、自分たちも大変だが、子どもたちに我慢や頑張りを強いていると、後々そういうことが起きることを理解し、未来に向かって動いていかないといけない。
――どうすれば子どもの不安やつらさを軽減できるか。
コロナ禍の大変なところは、大人も全ての人が当事者だということ。これまでの災害は、第三者が離れた位置から助けに行くことができたが、今やらないといけないのは、当事者が相互に助け合いをするということ。
大人が助けを求めること、皆で助け合う気持ちや考えを持ち、行動すること、それを子どもたちに堂々と見せることが大事だと思う。
「助けて」と言うのは駄目なことじゃないが、言ってはいけないと思っている子、助けを求めるのは弱虫とか、そういう考えを持つ子もいる。大人もそうで、「助けて」なんて言っている姿を子どもに見せるわけにはいかない、みたいなことを思っている。
「できないことがあっても別にいい」とか「ここまでなら助けられる」とか、そういう姿を堂々と子どもに見せていい。そうすれば、子どもたちが少し楽になれるのでは。
みんな我慢しているのに私だけ「助けて」と言っていいのかと、コロナ禍は子どもたちに今まで以上に突き付けている。相談していい、つらいときはつらいと言っていい、ということを子どもに伝えてほしい。
子どもの「今」を大切に
――コロナ禍の受験シーズンを迎え、目標に向かう子どもたちの気持ちを支えるにはどうするか。
子どもが前向きに進んでいく力の大きな要素は自尊感情。自尊感情には大きく二つあり、一つは「できる、わかるの社会的自尊感情」、もう一つが「自分を大切に思う基本的自尊感情」。基本的自尊感情は、自分は自分のままでいい、自分は愛されている、自分は大切な存在だと思える力で、その土台の上に社会的自尊感情がある。
基本的自尊感情を育むことが大事で、そのための方法は、子どもの「今」を大切にすることだと思っている。難しいことではなく、子どもがご飯を食べておいしそうな顔をしていたら「おいしいね」と言ってあげる。「痛い」と言ったら「痛いね」と言ってあげること。あなたが感じている感情は間違っていないということを、一緒に味わってあげる。
自分のことを本当に大事な存在だと思っていなかったら、志望校のA判定が出ても不安は消えない。思ったような点数が取れないこと、理想に近づけないことがあったとしても、自分の中の不安を払拭できる力になるのは、基本的な自尊感情だと思う。
――大人に伝えたいことは。
もっと大人は子どものモデルであることを意識していい。
子どもの不安を受け取るには、大人も誰かに不安を手渡せないといけない。大人が目いっぱいの状況だったら、子どもの不安なんて受け入れられない。大人も傷つくので、大人同士がつながって、自分の弱さやしんどさ、至らなさなどを手渡せる仲間と時間と空間が必要だとお伝えしたい。