対中外交は重要な局面に 親しい隣国、米国の同盟国として

バイデン大統領の初めての首脳会談が、菅総理が訪米して開催されました。一連の外交上の動きの一つの節目となる会談でした。米政権にとって喫緊の課題が対中国政策であり、今回の会談自体が米国が中国問題を最重要視している証左であると同時に、日本に対する信頼の大きさを物語っています。
米中の対立が鮮明化する外交分野で大きな動きがありました。
3月にクアッド(日米豪印首脳テレビ会議)が米国の呼びかけで初めて開催され、安倍総理が以前に提唱した「『自由で開かれたインド太平洋』のための共通のビジョンのもとで結束している」旨を表明しました。
共同声明では、幅広い分野にわたって協議され、以下のように「自由で開かれたインド太平洋」のための共通ビジョンがまとめられたことは画期的なことです。
①安全と繁栄を促進し、脅威に対処するために、国際法に根差した、自由で開かれ、ルールに基づく秩序を推進することに共にコミットする。
②新型コロナウイルス感染症の経済的及び健康上の影響に対応し、気候変動と闘い、またサイバー空間、重要技術、テロ対策、質の高いインフラ投資、人道支援・災害救助及び海洋分野を含む、共通の課題に対処する。
③健康安全保障について、安全かつ手頃な価格で有効なワクチンの生産と公平なアクセスを拡大すべく力を合わせ、世界保健機構など関連する多国間組織との緊密な連携の下、インド太平洋へのワクチンの公平なアクセスを強化すべく協働する。
④気候変動が世界的な優先課題であるとの認識のもとで団結し、パリ協定に沿った気温の制限を実現可能とし続けることを含む、すべての国の気候行動を強化すべく行動する。
⑤東シナ海及び南シナ海におけるルールに基づく海洋秩序に対する挑戦に対応するべく、海洋安全保障分野を含む協力を促進する。
⑥北朝鮮の完全な非核化への我々のコミットメントを再確認し、また日本人拉致問題の即時の解決の必要性を確認する。
⑦ミャンマーにおける民主主義を回復させる喫緊の必要性と、民主的強靭性の強化を優先することを強調する。
⑧専門家及び高官は定期的に会議を開催し続け、外務大臣は少なくとも年に一度は会合する。首脳レベルでは、2021年末までに対面の会議を開催する。
また、この会談以降、日米の外務・防衛大臣による2+2の会議が開催され、引き続き米韓の2+2が開催されました。
そして、これらの会議を踏まえて米中外交トップレベル会議がアラスカで2日間にわたって開催され、会議の冒頭で双方が現状認識を率直に述べ合い、激論が交わされたことは、メディアでも大きく報じられましたが、非常に良かったと思います。
南シナ海での埋め立てや尖閣諸島へのアプローチなど既成事実を積み上げて、拡大路線を歩む中国のやり方は、「クワッド」をはじめ関係諸国にはもはや看過できません。それだけに、日本や米国の懸念を本音で伝え、また中国の主張を聞くことは非常に重要です。対立を深めることは、双方にとって決して得策ではないだけに、双方が、とくに中国が抑制的であることを願います。
自由、民主主義、基本的人権、法の支配、市場経済などの価値を共有する米国の同盟国として、同時に中国と千年をこえる長い交流の歴史を持つ隣国として、日本にとって非常に重要な外交の局面にあります。
天安門事件当時、「価値観の表明は明確に、実際の行動は慎重に」が外務省の方針だったとのことですが、現在も間違っていないと思います。