陶工をモデルに 得津さんが小説『沙夜月』

和歌山市有本のマナーコンサルタント、得津美惠子さんが、5作目となる小説『沙夜月』を出版した。

同作では、陶工の津村幸四郎と仕事を通じて知り合い、人生を重ねるようになっていく静香のやり切れなさや、生きることの厳しさなどが描かれている。日々さまざまな出来事や人間模様を乗り越えながら「今」を生きているはずの2人が、それぞれの「過去」に翻弄(ほんろう)されながら、思わぬ形で別れを迎えるストーリー。

主人公の一人、津村のモデルになったのは、物語の舞台としても登場する広川町の陶工、加藤呆?(ほうあん)氏(82)。加藤氏は、江戸時代末期から半世紀ほどで途絶えていた紀州徳川藩ゆかりの南紀男山焼を復元させた人物として知られるが、大病を患い、長く闘病している。

得津さんは2008年、第1作目の小説『春のうねり』を出版した際、同作の表紙絵を手掛けた日本画家、吉本永仙(えいせん)氏から加藤氏を紹介された。初めて会った際、加藤氏から「波乱万丈の人生を歩んでいるわしのことを書いてくれへんかな」と依頼を受けたという。得津さんは同書を手に、「『生きているうちに本にしてくれ』と言った加藤先生との約束をついに果たせた」と安堵の表情を見せた。

物語の最初と最後を決めてからストーリーを膨らませていったという得津さんは、加藤氏をモデルに多くの脚色を交えて同書を完成させたという。作中の表現については、「南紀男山焼を復元させた加藤先生だからこそ、あえて作中では新しく作品を作る『陶芸家』ではなく、昔からのものを引き継いでいく『陶工』とした」と説明し、「加藤先生のように一心不乱に作品を作る、私利私欲が見えない本物の芸術家こそ、真の芸術作品を生み出せる」と笑顔でたたえた。

同書を受け取った加藤氏は「焼物を題材にした小説はあまりなく、成分など細かなところまでよく調べて書いてくれた」と評し、「夢の夢でした」と喜びを表した。得津さんは、「紀州には素晴らしい焼物があったということを知る機会にもつながれば」と願っている。

A5判、101㌻。1650円。宮脇書店和歌山店・ダイワロイネット店、TSUTAYAWAYガーデンパーク和歌山店、帯伊書店、Amazonで販売。

問い合わせは得津さんのホームページ(http://www.eonet.ne.jp/~manner/)。

『沙夜月』を手に笑顔の得津さん

『沙夜月』を手に笑顔の得津さん