島村逢紅が写した光と影 近代美術館で特別展
和歌山市の写真家、島村逢紅(本名・安三郎、1890―1944)の作品を紹介する展覧会が19日まで、同市吹上の県立近代美術館で開かれている。特別展「和歌山の近現代美術の精華」の第2部「島村逢紅と日本の近代写真」で展示。ことしの春、新たな逢紅の作品が大量に見つかり、写真界の黎明期に生み出された貴重な作品の数々に光が当てられた。
逢紅は1912年、同市に写真クラブ「木国(もっこく)写友会」を設立。1930年代には、福原信三が設立した「日本写真会」の同人となり、39年に資生堂ギャラリーで初めての個展を開催。絵画的な芸術写真から、写真でしかできない表現を目指した「新興写真」へと動向が移り変わる時代に、その独自の漆黒と階調表現は、福原路草と対比して「路草の白、逢紅の黒」と高く評価された。
今展では1910年代から40年代までのオリジナルプリントなど約200点を紹介。黒と白で表現したツバキやリンゴなどの静物、妻や家族を被写体にしたスナップ、光と影を美しく捉えた風景写真が並ぶ。
交流のあった写真家の福原信三や福原路草、野島康三、安井仲治、淵上白陽、「木国写友会」のメンバーだった島村嫰葉、島村紫陽、江本綾生らの作品も紹介している。
逢紅の孫で、木国写友会現会長の島村安昭さん(72)は「時間と労力をかけて、あらゆる方面に向けてシャッターを切り、時代というものを写真で残してくれたのだと思います」と話し、同会のメンバーで同市の小野誠之さん(93)は「光の表現が絶妙で、構図を考えて丹念に撮影している。機材の制約がある中、一枚に懸ける思いや、ものを作ろうという気概が強く伝わってくる」と見入っていた。
この他、第1部では県ゆかりの美術家らの作品や資料約200点を紹介。日本画家の下村観山の穏やかで優美な作品や、夏の雑草を題材にした川端龍子の六曲一双の作品、同館を設計した建築家、黒川紀章の同館に関するイメージスケッチなど貴重な資料が並ぶ。
観覧料1000円、大学生600円。高校生以下や65歳以上は無料。問い合わせは同館(℡073・436・8690)。