母国の平和願い活動 ウクライナ人留学生

ロシアによるウクライナへの軍事侵攻が続く中、ことし3月に来日し、和歌山大学(和歌山市栄谷)で日本語を学ぶウクライナ出身のパーダルカ・オリハさん(22)は、母国の状況を日々確認しながら、自らもSNSを使い、英語と日本語で世界中に情報を発信している。また、ウクライナから日本へ逃れる避難民の受け入れ準備を進める同市や県警と話し合いを持つなど、「できる限りの支援をする」と誓い、母国から遠く離れた異国の地で全力を尽くしている。

オリハさんは首都キーウ(キエフ)から南に約100㌔のオリシャニツィアという町で両親と暮らしていた。「高校の頃から外交に興味があった」といい、2016年にキーウの国立大学に入学し、日本語を専攻。「何か外国語を学びたいと思った時に、一番珍しい言語を選んだ」とほほ笑む。

これまでウクライナから出たことはなかったが19年、2週間の研修で初めて来日。関西国際センター(大阪府泉佐野市)で研修を受けながら京都や奈良にも出掛け、温泉に入るなど観光も楽しんだ。「全てが素晴らしかった」と振り返るこの時の経験から、日本への留学を志した。

日本政府の日本語・日本文化研修留学生に挑戦し、見事選ばれた時には、約70もの大学の中から「行ったことのある泉佐野からも近い」「友人に和歌山はきれいな町だと聞いた」などの理由から同大を第1志望に選んだ。

希望通り同大への留学が決まったが、コロナ禍で1年遅れて21年10月に入学。入国の見通しが立たないまま、オンラインでの授業が始まった。ようやく入国再開の連絡を受けた6日後の2月24日、ロシア軍による侵攻が始まった。「戦争が始まった時は信じられなかった」と顔を歪ませる。

空襲警報が鳴り響く中、「今、母国を離れていいのか」と来日を悩んだが、家族や友人たちに背中を押され、20時間以上かけて国境を越え、3月中旬に来日した。同大ではビジネス日本語や文化についても学び、15日にはことし創始400年を迎える和歌祭の「唐人行列」にも参加する。

「本当に楽しい」と声を弾ませる和歌山での生活について、ビデオ通話で家族に伝えるのが日課となっている。花見の写真を送った時には、家族から「そんなに美しい所にいるのね」と言われたといい、「家族も喜んでくれている」と笑顔を見せる。

一方、日々ウクライナの状況を確認しては「心を傷つけられている」と話す。キーウの大学で同級生だった軍人の男性が、ウクライナ南東部のマリウポリでロシア軍の捕虜になったと伝え聞いた。「心が傷つくと分かっていても、今ウクライナがどんな状況なのか全部知りたいし、確認しないと落ち着かない」と話す。

だからといって「かわいそう」と思われたくはない。「ウクライナから来たと言うと、時々『かわいそう』という言葉が返ってくるが、今安全な所にいるのになぜかわいそうなのか、私が聞きたい」と首をひねる。

必要なのは同情ではなくサポート。「ロシアが悲惨なことをしていると知ってほしいし、より多くの人たちにウクライナをサポートしてもらいたい」と願い、自らもインスタグラムを通じて情報を発信している。

留学期間は10月まで。その頃には「ウクライナが勝って戦争が終わり、母国に帰る」というシナリオに望みをかける。「敵と話すだけでなく、いろんな国が話し合い、同意して戦争が二度と始まらないようにしたい」と、高校から夢見た外交に携わる仕事への思いをより一層強めながら、勉学に励む。同時に、母国の平和を願い、今できるサポートを積極的に行っている。

「できる限りの支援をしたい」とオリハさん

「できる限りの支援をしたい」とオリハさん