角長の施設群が重文指定へ 醤油醸造の老舗
醤油(しょうゆ)発祥の地・和歌山県湯浅町の老舗醸造家「角長」(同町湯浅)が、重要文化財に指定される。国の文化審議会(佐藤信会長)が12日、文部科学大臣に答申した。今回を含めて県内の国指定重要文化財(建造物、国宝を含む)は85件となり、同町内では初めて。湯浅の歴史的建造物において現役で醤油醸造を続けている唯一の施設群として、非常に価値が高い。
角長(加納家住宅)は、国指定の重要伝統的建造物群保存地区の北西部に位置する、醤油醸造家の住居と醸造施設群。幕末の天保12年(1841)に現在の場所で創業し、順次敷地を購入、拡大し、地区内最大規模の敷地を有する。主屋、土蔵、穀蔵、麹室(こうじむろ)、仕込蔵、醤油蔵、樽蔵、醤油蔵(北)、醤油蔵(南)、角蔵、辰巳蔵の11棟が今回の指定対象となる。
角長がある北町通りの北側には、醤油の積み出しにも使われたとされる大仙堀を背に、東に居住部及び店舗である主屋や土蔵、穀蔵が建ち、西には麹を付けた材料を発酵させる麹室、塩水を混ぜて醤油を仕込む仕込蔵、圧搾や火入れを行う醤油蔵が並ぶ。北町通りの南側には、西に樽蔵、醤油蔵(北)、醤油蔵(南)があり、東に角蔵、現在は展示施設として使用されている辰巳蔵が建つ。
主屋は木造平屋の一部2階建て、瓦ぶきで、東側や北側に座敷、離れが突き出している。主体部は創業時のものと考えられ、近代になって増築を繰り返した。表構えは格子窓と縦板張りを基調とし、2階には虫籠窓(むしこまど)を配した伝統的な町家の外観となっている。
土蔵は明治中期にさかのぼるとみられる。穀蔵は、現在は倉庫として使われているが、当初は米を納めており、主屋の主体部と同じ江戸末期の建築と考えられている。
麹室は明治39年(1906)に整備され、内側はレンガ積みの壁で東西2室に区切られている。
仕込蔵は江戸末期に建設され、内部に24基の仕込桶を並べ、桶の天端に合わせて全面に床板を張り、仕込み作業を行う2階を造っている。梁や棟木には醸造による酵母が付着し、角長の醸造施設の中でも特に重要な空間となっている。
辰巳蔵は、慶応2年(1866)に別の醸造家によって醸造蔵として建てられたが、明治後期に角長が取得し、西側を増築。現在は醤油醸造に関する道具などの展示施設として活用されている。
角長には、幕末から明治にかけての建物群が残り、醤油醸造の隆盛により大型化していった施設の発展過程を今日に伝え、伝統的な醤油醸造の生産過程を示す一連の施設がそのまま残る。歴史的景観を色濃く残す貴重な文化財と言える。