「情報的健康」の実現へ対策を 放送法改正小委員会から提言

スマホやSNSなどの進展により、従来にはない利便がもたらされる一方、憂慮すべき影響も指摘されはじめました。
①子供への影響として、スマホなどに依存し時間の喪失、生物として備わっている五感などの低下、②自殺をはじめ誹謗中傷による社会問題、③フェイクニュースによる社会の混乱、④個人データの活用が購買活動や政治信条に影響を与えること、などです。
そのような中、委員長を務めた「放送法の改正に関する小委員会」の提言を、8月24日に総務大臣に手渡しました。
放送を取り巻く環境は、情報通信技術の進展によって大きく変化しています。インターネットの普及で情報量が爆発的に多くなり、アテンション・エコノミー(関心を競う経済)が情報空間を支配し、フェイクニュースが溢れ、興味を持ちそうな情報だけが推薦されるシステムによって多様な情報に触れる機会が失われています。また、時間に縛られないなどの視聴スタイルの変化や動画配信サービスの進展などによって、若者を中心とした「テレビ離れ」が進み、チューナーのないテレビが販売されています。
こうした変化は放送自体の存立、とくに民放の経営基盤を脅かすものです。取材や編集に裏打ちされた信頼性の高い基本的な社会情報や災害時情報を提供してきた放送は、健全な民主主義の発展に極めて重要な役割を果たしてきました。それだけに公共放送と民間放送の二元体制の維持は、民主主義社会における思想及び情報の自由な伝達、交流の確保にとって必要との基本認識のもと、①NHKのインターネット業務のあり方、②受信料の見直し、③メディア所有規制等の柔軟な見直し、④魅力あるコンテンツの制作、⑤設備コストの抑制、⑥同時配信等への安全・円滑なアクセス、について提言した次第です。総務省では現在、提言を踏まえた有識者会議が行われています。
このような折、『デジタル空間とどう向き合うか―情報的健康の実現をめざして』(鳥海不二夫・東大教授、山本龍彦・慶大教授、共著)に接する機会がありました。非常に示唆に富む内容だけに、要点を引用します。
「特に問題とすべきなのは、『アテンション・エコノミー(関心経済)』と呼ばれるビジネスモデルの下で、我々の多くが情報偏食の状態にさせられていること、事業者の経済的利益を最大化するアルゴリズムのために特定のコンテンツを他律的に摂取させられていること、こうした情報環境に置かれていることを多くの者が十分に知らされていないことである。かくして最も重要なのは、我々がいま置かれている情報環境とはどのようなもので、日々どのような情報を食べているかが明瞭に認識されること、そして、情報の偏食を改善したいと考える人々に対して、多様な情報をバランスよく摂取できるような機能が提供されることである。
情報通信技術がもたらす便益を享受しつつ、フェイクニュースが及ぼす危害を避け、憲法の基本原理と調和する健全な言論環境を実現する。(中略)そのためには、ユーザー、デジタルプラットフォーム事業者、既存のマスメディアが変わること、さらに、政府が『情報的健康』の実現に向けてさまざまな側面的支援を行うことが必要である。」
すでにEUではプラットフォーム規制法であるデジタルサービス法が議会で承認され、理事会の承認待ちです。また、欧州委員会はデジタル時代の人権宣言ともいうべき「デジタル権利及び原則に関する宣言」を公表し、「子供と若者は、オンラインにおいて保護され、力を与えられなければならない」と規定しています。
日本においても、早急に対策を講じるべき時期にきていると思います。