80年以上の創作回顧 近代美術館で稗田一穗展

昨年3月に100歳で亡くなった和歌山県田辺市出身の日本画家、稗田一穗(ひえだ・かずほ)の作品展が県立近代美術館(和歌山市吹上)で開かれている。11月6日まで。同館の宮本久宣学芸員は「生涯にわたってどのように絵を展開し、どんなふうに描いてきたのか。80年以上にわたる創作活動に、あらためて思いをはせてもらえれば」と話している。

稗田は10代半ばで日本画家を志して東京美術学校で学び、戦後、本格的に画家としての活動を始めた。鳥を主要なモチーフとし、生命をことほぐような素朴で力強い表現、世界的な絵画動向を意識しつつ、画材の特質も発揮した画面構成は日本画の地平を開くものとなった。

60歳を迎える頃からは、故郷である和歌山の熊野をモチーフとした悠久の時間を思わせる荘厳な風景、長く生活を営んだ東京・成城の町をモチーフとした詩情あふれる日常の風景が主要なテーマに加わり、見る人の想像力をかき立てるような独自の世界観を築いていった。

今展では、16歳の頃に描いた「初夏の庭」から、創画展への最後の出品作となった「晩夏」まで約80点の他、初公開となるアトリエに残されたスケッチブックなど45点を紹介。

月明かりに照らされた熊野の風景「幻想那智」、夏の終わりの情景に物悲しさを重ねた「夏去る」、たそがれ時の沿線を描いた「帰り路」などが並ぶ。

花鳥画は従来の優美さだけでなく、生き物としてのたくましさやダイナミックさ、力強さなどを意識し、表現を追求。想像上の神獣「鳳凰」を描いた屏風(びょうぶ)の作品では、鳳凰の声までを想像して描いたという。

また、熊野那智大社の社殿の一部を月とともに描いた「天宇」、月影に照らされた道など、月を印象的に描いた作品も多く残している。

宮本学芸員は「80年以上もの間、自分の創作物を世に問うというのは、すごいこと。風景画にしても、絵としてつくり上げられたものなので、不思議な感覚や、ふとした違和感も見どころ」と話している。

午前9時半から午後5時(入館は4時半)まで。フロアレクチャー(学芸員による展示解説)は30日午後2時から。問い合わせは同館(℡073・436・8690)。11月19日から来年1月15日までは、田辺市立美術館と熊野古道なかへち美術館で田辺展を開く。

那智の滝を描いた「幻想那智」㊧も

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