脳卒中患者の復職へ リハビリ病院が後押し
脳卒中の患者に復職の意欲を持ってもらおうと、和歌山県紀の川市貴志川町の社会医療法人三車会貴志川リハビリテーション病院(亀井一郎院長)は、後遺症を抱える年間約30人の復職を目指す入院患者らが、魚をさばく作業や工具を使った組み立てや板書の書き写しといった職業訓練学校で授業を受けるための練習、パソコンの操作などの職業リハビリに取り組んでいる。
日本人の死亡原因の4位である脳卒中は、65歳以下の若年層にも増えている。厚生労働省が公表した「事業場における治療と仕事の両立支援のためのガイドライン」内の「2014年患者調査」によると、脳卒中を含む脳血管疾患の治療や経過観察などで通院している患者数は全国で118万人。うち約14%(17万人)が就労世代(20~64歳)とされる。
半面、医療の進歩によって脳卒中を含む脳血管疾患の死亡率は低下。就労世代などの若い患者においては、約7割がほぼ介助を必要しない状態まで回復するものの、手足のまひや言語障害などの後遺症が残るため、専門的なリハビリテーションによる継続的な支援が求められている。
貴志川リハビリテーション病院は2020年4月、脳卒中患者の就労や復職の支援を目的に取り組みを開始。入院患者は40代や50代の働く世代が中心で、プログラムは主治医など6部門の専門家が患者の症状などを共有して作成している。同院の理学療法士・両立支援コーディネーターの田津原佑介さん(34)は、「職場復帰のためには発症後早期からのリハビリテーションが大切」と話し、21年3月までに入院した65歳未満の19人のうち、16人の患者が復職を果たした。これは全国平均約5割を大幅に上回る約8割という高い数値となる。復職の内訳は、現職復帰14人、新規就労1人、福祉就労1人。前職を辞めて新規就労や福祉就労を目指す患者がいることについて田津原さんは「脳卒中者を対象とした福祉就労事業が少ない」と現状を明かし、「年単位の長期支援が必要なため、職場復帰を目的としたリハビリテーションの認知度を上げたい」と話している。
勤務先と連携し支援 主治医らが職場訪問
同院の復職支援では、リハビリだけでなく職場上司との話し合いや職場訪問を行い、主治医・両立支援コーディネーターの資格を有したリハビリテーション部の言語聴覚士、理学・作業療法士、看護師、社会福祉士が入院中に勤務先と定期的に話し合う機会を持つ。
入院する井上元希さん(49)は母純子さん(73)と2人暮らし。ことし4月、在宅中に脳出血で倒れ、回復後も後遺症で右半身のまひや失語症などに悩んだ。5月の入院当時は言葉が出にくく、スマートフォンでLINEの短い文章を打つのに苦労したが、今はしっかり話せるようになり、身の回りのことは自身でできるようになったという。しかし、前職の配送業を継続することは困難と判断。現在同院で職業リハビリ(PCの入力練習や院内でのモップ掛け)などを行いながら、新規就労を目指して今秋からは清掃、事務職を視野に、障害者職業センターに通い仕事を見つけるという。井上さんは、「高齢の母を支えるために一日でも早く復職したい」と話している。