能面大好き3歳児 久保さん宅を訪問

和歌山市の能面師・久保博山さん(82)の能面教室にこのほど、能面が大好きな3歳の「小さなお客さん」、同市の福原愛唯(めい)ちゃんが訪れ、共に能面談義に花を咲かせた。

愛唯ちゃんが、能面に興味を持ったのは1歳の頃。母・美有紀さん(38)が見ていた日本料理の作法本がきっかけ。日本の伝統文化を紹介するページがあり、掲載されていた、若い女性の面「小面」にくぎ付けになった。1歳半で「のうめん」の言葉を覚え、愛読する能面雑誌を見ては、目の大きく飛び出た面「大飛出(おおとびで)」の顔まねをするなど、すっかり“能面沼”にはまった愛唯ちゃん。両親も能面をプリントしたTシャツを自作するなど、愛唯ちゃんの「大好き」を後押しする。

この日、久保さんに会うのを心待ちにしていたという愛唯ちゃんは、美有紀さんが描いた「小面」のイラスト入りマスクを着け、手には能面の形をしたポーチを持ち、意気揚々と訪問。

部屋にずらりと並んだ26枚もの面を見て「わぁ!般若だー」と駆け寄り、さっそく久保さんに「これは何?」と興味津々に質問。久保さんは「角がある一角仙人だよ」、「これはヘビの『蛇(じゃ)』の面」と丁寧に説明した。

愛唯ちゃんは老人の翁(おきな)面を見て「おひげが長いね」、一見そっくりな2枚の能面を比べては「こっちは目が金色」と違いや特徴を指摘。久保さんは「こんな小さな子が能面に関心を持ってくれるなんて感激やよ」とほほ笑み、すぐに打ち解けた2人は能面を通じ、79歳差の友人に。

久保さんは、県立和歌山工業高校で教師をしていた33歳の時に大阪府箕面市の能面師・摂津一観さんのもとで修行を始めた。退職後は能面教室を開き、後進を指導する他、紀州東照宮の例祭・和歌祭の「面掛行列(百面)」の修復や新面の奉納などを手掛ける。2012年度「県名匠表彰」に選ばれた。高い技術で制作した面は、和歌山市の能楽師・小林慶三さんや松井彬さんらが能舞台で使っている。

久保さんは面を制作過程順に並べ、面の木材はヒノキであること、彫るのも塗るのも全て手作業であることを説明。一方、愛唯ちゃんは気に入った「万媚(まんび)」の面をかけるなど、普段では体験できない特別な時間を楽しんだ。

久保さんが「いつか能面作ってみるか」と尋ねると、愛唯ちゃんは元気よく「うん」。日本の伝統芸能が巡り合わせた縁は、これからも続く。

 

久保さんの説明を真剣に聞く愛唯ちゃん