専守防衛の現実の姿 戦争をさせない抑止力が必要

先日、和歌山での会に小野寺五典元防衛大臣にお越しいただき、日本を取り巻く安全保障問題について講演いただきました。大変好評だったので内容を引用しつつ、安全保障問題について述べます。
まずは、ウクライナの現状が専守防衛の現実の姿という指摘です。
ウクライナは軍事的にロシアに反撃できる能力を持たない専守防衛の国です。そのため、全土にわたって攻撃を受け、多くの住民が亡くなり、家もインフラもそして工場が破壊されても、ロシア本土を攻撃できません。一方、ロシアはウクライナから軍事的な攻撃を全く受けず、戦地の軍人を除いて死者はなく、経済制裁による影響を除けば生活も変わらず、工場も無傷のままです。
すなわち、ウクライナは戦うための武器や弾薬すら生産できず、西側諸国からの支援によってしか戦えない一方、ロシアでは厭戦気分は広がらず、武器や弾薬も生産され続けます。これでは、ウクライナが降伏するか、ロシアが何らかの理由で戦争を止めることでしか戦争は終わりません。
この専守防衛の現実の姿をふまえ、昨年12月に政府は防衛費の増額や反撃能力の保有などを盛り込んだ新たな防衛3文書を閣議決定しました。専守防衛の方針は変わらず、反撃能力はあくまでも「必要最小限度の自衛の措置」であり、自衛隊と米軍との役割分担にも変更はありません。
日本を取り巻く現状は、周辺国のミサイル技術が進化するなかで従来と大きく変わり、艦船や航空機からだけでなく、相手の領土から直接ミサイルが飛んでくるようになりました。つまり、相手が戦い方を変えて自国から直接攻撃する体制を取るようになった結果、従来の迎撃能力では対応が難しくなり、専守防衛の範囲内で相手の領土まで届く反撃能力を持たざるをえない状況となったのです。
また、1987年に米ソで締結されロシアにも引き継がれたINF条約では、射程が500~5500㌔の地上発射型弾道ミサイルと巡航ミサイルの廃棄が定められました。しかし東アジア地域において、対象国ではない中国は現在、中距離ミサイルを約2000発保有し、一方で日米の保有数はゼロという圧倒的な格差が生まれています。
このような軍事バランスの崩壊を食い止め、均衡を保つことで相手に攻撃させないようにする、すなわち戦争が起きない状態を維持するには、日本の抑止力を高めることが必要です。
さらに、現在の日本は予算不足で弾薬も兵器の部品も不足しており、十分な防衛力を保持しているとはいえない状況です。防衛に関わる研究開発や製造も、今日までの日本学術会議の方針で関連する科学研究が許されない状況が続いたため、諸外国に比べ大きく遅れています。装備品の国内での安定供給や、新しい戦い方に必要な先端技術の取り込みは必要不可欠であり、また派生技術の民間利用は今後の日本の成長戦略にとっても重要です。
ウクライナの例を見るまでもなく、ウクライナ自身が戦わなければ、ウクライナに代わってロシアと戦ってくれる国はありません。日本が主体的に、日本を守るための戦いをしなくては、日米同盟も機能しなくなります。
日本は反撃能力を持つ国であり、日米同盟は強固で、日本を攻めれば必ずアメリカが参戦してくる。このことを明確に諸外国に示すことが、戦争を起こさせない最大の抑止力です。