紀伊万葉が評価 作曲コンクールで秋月さん
和歌山市のピアニストで作曲家の秋月いづみさん(28)が、国内外からプロを目指す音楽家らが出場するK音楽コンクールの「第4回作曲譜面審査コンクール」で1位に輝いた。曲は「紀伊万葉」と題し、和歌山で詠まれた万葉歌をイメージして作ったもの。秋月さんは「和歌山の素晴らしいところを表現した曲で1位になってうれしい」と受賞を喜んでいる。
1位に選ばれた「紀伊万葉」は、昨年11月、和歌山市の和歌山城ホールで開かれた「きのくに舞台芸術祭」で披露するピアノとフルートの演奏で、万葉歌を朗読する演目として作られた。秋月さんは、歌人がどのような情景を込めて31文字に遺したのか、波の音、潮の風、鳥の声、花の香りに恋心を想像し、作曲したという。
審査員は、作曲家、ピアニスト、指揮者として活動する青島広志さんと、洗足学園音楽大学で作曲及びピアノコース統括責任者を務める同大学教授の山田武彦さんが務めた。山田さんは「楽器法、旋法の使用法、邦楽のリズムなど効果的で充実した長さの楽想が楽しく感じられる曲」と評価した。
秋月さんは大阪出身。5歳からピアノを始め、京都女子大学発達教育学部3回生の時に作曲を学び、これまでピアノや作曲コンクールで数々の賞に輝いている。
5年前に祖母の介護のため和歌山市に住居を移し、和の音楽を中心に作曲、演奏活動を行い、2年前から同市を拠点に活動する「劇団ZERO」の朗読劇などで作曲、演奏も担当している。
秋月さんは作曲にあたり、万葉集について学ぼうと、万葉集に関する解説や展示を行う同市和歌浦南の万葉館を訪問。和歌山で詠まれた中から風景の美しさ、恋、愛、人の死を悼む5首を選び、曲作りを始めた。「若の浦に潮満ち来れば潟を無み葦辺をさして鶴鳴き渡る」(山部赤人)から、干潟で餌を食べていた鳥たちが、潮が満ち、飛び立っていく際の声や波を音で表現。
「若の浦に袖さへ濡れて忘れ貝拾へど妹は忘らえなくに」からは、貝殻を胸に当てると恋の苦しさを忘れることができる、とたくさん拾ってみたものの、忘れられないという切ない気持ちを曲に込めた。ピアノを弾きながら、何度も練り直し2カ月かけて完成。最初のリハーサルで、演奏に合わせて和歌を朗読する劇団ZEROの藤本理恵さんが、曲を聞いて悲しくなり、涙が出て読めなくなったこともあったという。
秋月さんは今後の目標について「自分で作曲、演奏して和歌山の良さを海外にも発信していきたい」と笑顔。次は道成寺にまつわる伝説を有吉佐和子が描いた「かみながひめ」をテーマに、「清らかな親子の情愛を音楽でも表現したい」と創作活動に取り組んでいる。