がん患者のつらさVRで緩和 県立医大研究

和歌山県立医科大学は、退院や外出が困難ながん患者への緩和ケアにVR(仮想空間)技術を用い、自宅など入院前の日常の環境に移動し、家族らとリアルタイムに会話しているような体験を提供する取り組みを進めている。患者への調査から、入院生活のつらさが緩和される効果が出ていることが明らかになっている。

新型コロナウイルス感染症の世界的流行により、医療機関では入院患者の面会が制限され、県立医大付属病院でも2020年9月から23年5月まで全面的な面会制限を行った。

患者が家族と会えず、孤立する状態がまん延する前例のない事態に対し、タブレット端末などの通信機器を使って改善を試みる医療機関が相次いだが、端末を介した二次元の接触では満足感が次第に薄れ、十分な効果が得られなくなる課題があった。

同医大は、面会制限と、患者と家族のつながりを大切にするケアを両立することを目指し、21年4月、VR技術を緩和ケアに応用する共同プロジェクトチームを立ち上げ、研究を進めてきた。

28日、県立医大の探索的がん免疫学講座の山上裕機教授、付属病院の向友代看護師長、同院腫瘍センター緩和ケアセンターの月山淑センター長が記者会見し、研究成果を発表。

研究には、自宅に帰ることを望みながら退院や外出が困難ながん患者ら4人が参加。自宅や職場、ペットとの散歩道など、患者が訪れたい場所の映像を3Dカメラで撮影し、VRゴーグルを装着して体感しながら、家族や友人と電話でコミュニケーションをとった。

VRを体験中の患者は、映像に映ったペットの名前を呼んで抱き上げようとしたり、食卓に並んだ好物の料理に手を伸ばしたり、普段の入院中にはないような活発な動作も見られた。

4人には、VRを体験してどんな気持ちになったか、体験中や後の気持ちのつらさはどうだったかなど10項目のインタビュー調査を実施。「実家の中心に居る気持ちになり、近くに感じて気持ちのつらさがゆるんだ」「家族と近くに居ると感じて安心した」などの答えがあり、つらさが緩和される有用性が確認された。

課題としては、安定した高速通信が必要なため、5Gネットワーク環境の発展が求められることなどがある。患者が操作して家庭内を移動できるようなロボットが開発されれば、リアルタイム、双方向のコミュニケーションが実現でき、さらなる有用性向上にもつながる。

VRの活用は、今後の新たな感染症流行時に入院患者と社会とのつながりを確保する技術になり得る他、長期間の入院が必要な患者、老人保健施設や高齢者サービス住宅に入所する高齢者をはじめ他の医療分野への応用も期待される。

山上教授は、遠隔地の患者でも、仮想空間において、診察室で医師と対面しているかのように医療データを集めることが可能になるなど、VRの可能性の大きさを強調。「いかにデジタル病院を確立するかが最終目標となる。いろいろな分野で進めていくべきだ」と話した。

 

研究結果を説明する山上教授㊨と向看護師長