美しい海残したい 海岸清掃続ける井上さん
和歌山県の北端である和歌山市の大川漁港から車で数分。和歌山と大阪の県境に位置する岬町の小島自然海浜保全地区の海岸には、環境省から自然海浜保全地区として保護されている手付かずの自然が残る。ここに週に1回通い、清掃を続けているのは和歌山市の井上嘉介さん(56)。「きれいな海を残すために自分ができることはこれしかない」と、海岸に散乱するペットボトルやプラスチック容器などの漂着ごみを1人で拾い続けている。
同地区の海岸線を車で通勤していた井上さんは、仕事帰りに見える絶景の夕日が好きだったという。落ち込んだときは車を止めてしばらく眺めると心が癒やされ、救われたこともあったという。
1年半ほど前、ふと海岸を見ると30㌢ほどのウミガメが死んでいた。その横には大量のごみがあり、子どもが無邪気に遊んでいた。「このままでは駄目だ。きれいな海の思い出を子どもに残さなくては」と思い、掃除を始めた。週に1回、仕事が休みの日に通った。ごみを拾い、海岸が美しくなると、心が洗われるように気持ちがすっきりした。
10月のある日、海岸に行くと、今度は約1・5㍍の死んだウミガメが流れ着いているのを発見した。井上さんは「ごみが原因ではないか」と、ウミガメの調査を行っているNPO法人日本ウミガメ協議会に連絡した。数日後、同協議会とNPO法人大阪自然史センターのメンバーが調査に訪れた。調べた結果、胃の中にはビニールなどのごみを食べた形跡はなく、死因は病気、けがなどが考えられるとのことだった。それを聞いて安堵(あんど)したという井上さん。「ウミガメのためにも海をきれいにしなければならない」と一層、清掃活動に力を入れている。同地区の美しさが広まっていくようにと、絶景の夕日などの写真を撮り、SNSにアップするなど自分にできることを模索している。
井上さんは「自分を救ってくれたこの海が多くの人に愛されてほしい。そしてこの場所がいつまでも自然豊かな癒やしの場所であり続けてほしい」と願っている。