細畠清一さん書道の回顧展 長女が企画

和歌山の書道教育・文化の発展に尽くし、2022年に92歳で亡くなった和歌山市の細畠清一(静峰)さんの作品を紹介する回顧展「今日無事(こんにちぶじ)」が3日から9日まで、同市西汀丁の県書道資料館で開かれる。生前に個展を開いたことはなく、まとまった作品を展示するのは初めて。準備を進めてきた長女の美鶴さんは「どなたがご覧になっても、興味を持っていただける内容かと思います。父が生きた時代をたどっていただければ」と話している。

細畠さんは湊南尋常小学校(雄湊小)で故・山本興石氏に、桐蔭高校在学時に故・天石東村氏に出会ったことで書に親しみ、研さんを積んだ。

和歌山家庭裁判所に事務官として奉職。21歳で県展特選を受賞、25歳で無鑑査、36歳で審査員となり、日展では連続入選を果たした。和歌浦や東長町、築港、貴志の市内4カ所で教室を開き、和歌山に書道文化を根付かせた。

2004年には県と中国山東省の友好20周年を記念した訪中団に参加。中国の著名な書道家と揮毫(きごう)を交わし、書を通じた国際交流にも寄与した。また、長きにわたり県展の他、和歌山市展の書の審査員を務め、後進や書道家の育成に力を注いだ。08年には和歌山市文化功労賞を受賞。県美術家協会副会長、県書道協会会長、県書道資料館理事、青潮書道会参与などを務めた。

今展のタイトルは、生きていることのありがたさ、日常の尊さ、多くのものに支えられて今日無事にあるという感謝の思いが詰まったもの。生涯の親友にもこの書を贈っており、美鶴さんは生前、清一さんがしみじみと「『今日無事』は、いい言葉や」と口にしていたのを覚えているという。

ただ、生涯には「今日無事」ではない日もあった。和歌山大空襲を経験し、二十歳だった姉を亡くした。70歳の頃には妻の勝代さんが事故で急逝。何度も大病を乗り越えてきた。

美鶴さんは大学進学で和歌山を離れたが、母の死などもあり約20年前に戻った。長く故郷を離れていたこともあり、父のことを知りたいという思いが募り、生前から個展を開きたいと考えていた。

「今、父の書を見返しながら新しく知ることも多くあります。どれだけひもといても『これで完成』というものはありませんが、自分なりに心の整理や解釈がつけられそうです」

幼少期や学生時代を含め、生涯にわたって情熱を注いできた書の作品をはじめ、道具、防空壕で戦火を逃れた教科書、知人への手紙など約70点を展示。書道の審査が加わった第5回県展の目録など資料として貴重なものも並ぶ。美鶴さんは「父が生きているうちに開催したかったですが、一緒に見ているつもりで展示します。もし皆さま方に父との思い出があれば、教えていただきたいです」と話している。

午前10時から午後5時(最終日は4時)まで。

会期中の5日は清一さんの生誕94年に当たり、午後2時から同館で和太鼓の原啓司さん、ソプラノの谷野裕子さんによる演奏会がある。

問い合わせは美鶴さん(℡090・3403・0856)。

 

大作に取り組む清一さん
大作に取り組む清一さん