里山でイチジク栽培 移住者の夫妻が奮闘

丹精込めたイチジクを収穫する幸也さん㊧と葵さん
丹精込めたイチジクを収穫する幸也さん㊧と葵さん

「皮ごと安心しておいしく食べてほしい」――。和歌山市北別所の里山でイチジクを主に栽培する里山果樹園エールの出原幸也さん(37)と葵さん(37)夫妻。2年前に奈良から移住。荒れた状態の耕作放棄地をゼロから開墾し、農薬・除草剤・化学肥料を使わず、希少品種のイチジクを育てている。ことし初めて採れたイチジクを販売したところ「今まで食べたことのないおいしさ」などと話題を呼んでいる。

幸也さんは300年以上続く奈良県の農家に生まれ、幼少の頃から農業に携わってきた。学校を卒業し、工芸の分野で学びを深めてきたが、「自分と農業は切り離すことができない」と感じ、同地域の特産品であるイチジクを育てようと農家へ研修に。

そこで先輩農家の言葉や姿から、改めて農業のやりがいや食の大切さを学んだことで専業農家になることを決意。気候が温暖で果樹栽培に適している地として和歌山市を選び、築110年の古民家と山を購入し移住した。

葵さんと2人で繁茂した雑草を刈り、手作業で約1200坪の耕作放棄地を開墾。味にこだわりたいという思いから、昔からある伝統的な育て方を選択。果汁が多く蜂蜜を思わせる強い甘みの姫蓬莱、フランス原産で「幻の黒イチジク」と呼ばれるビオレソリエス、一口サイズのセレストなど一般市場には出回らない11品種、140本を育成。

肥料は地元の平飼い養鶏家からの鶏糞や地元農家の米ぬかなど、地産にこだわったオリジナルの肥料を手作り。

2人が丹精込めた木はすくすく育ち、たくさんの実をつけた。収穫は6月下旬から始まり、11月初旬まで続く。

順調に成長していたイチジクだったが、夏になりイノシシが多数出没。実を食べられるだけでなく、木が根元から折られるなど甚大な被害を受けている。

幸也さんは「頑張って育ててきた木が6本以上駄目になりショックでならない」と肩を落とす。

和歌山市に相談し駆除を依頼。捕獲用のおりを設置することにし周辺を防護柵で囲ったが、イノシシは学習能力が高く、檻にかからず、柵を折り曲げて入ってくるという。対策を試行錯誤しながら悪戦苦闘中。「山間部で農薬や除草剤、殺虫剤などを一切使用せずに、農業をするのは大変な部分も多い」と幸也さん。

ホタルがすむ豊かな自然が広がるこの里山を維持しながら、人と自然が調和し、循環したつながりのある農業を信条に奮闘。「今後はこの地域の耕作放棄地をゼロにしたい」と2人で力を合わせる。「味にこだわったイチジク。11月まで食べられますのでぜひ一度味わってみてください」と幸也さんと葵さんは笑顔で呼びかけている。

販売、問い合わせなどは電話、メール、インスタグラムのDM(℡080・9505・8370、メールento89@gmail.com、インスタグラム@ailes2024)で受け付けている。