瀬戸内海で獲れる「鰆」

春の季語として知られる「鰆」
春の季語として知られる「鰆」

前号では、明治期に海を通じた綿花の入手により栄えた、洲本と和歌山における紡績工業の歴史を取り上げた。紀淡海峡を挟み向かいあうこの地域には、他にも共通する魅力がある。今週はこの時期においしい海の幸「鰆(サワラ)」を紹介したい。

魚編に春と書いて鰆。俳句の世界では春の季語として使われる春を代表する魚である。日本全国に分布しているが、春になると瀬戸内海で産卵することから、この地域で多く水揚げされる。産卵期である夏の時期を除けば年間を通しておいしく、とくに脂がのる冬の時期は「寒鰆(かんさわら)」として濃厚な味わいになる。

味噌漬けにされた西京焼きや刺し身で食べるのが一般的で、白身魚のように思われるが実はサバ科の赤身魚。細長い体が特徴で、腹が狭いことから「狭腹(さわら)」と呼ばれたことがその名の由来とされる。幼魚の頃は「サゴシ」と呼ばれ、成長し体長が60㌢以上になるとサワラへと呼び名が変わる出世魚である。

一般的に一切れ数百円で販売されているが、体が大きいこともあり一匹単位になると1万円ほどに。脂がのる冬季になると高級魚として扱われる。2019年の農水省統計によると都道府県別の漁獲量の上位は、福井、京都、石川、鳥取、島根と日本海側の地域が独占しており、瀬戸内海の地域は漁獲量としての優位性は低い。

その中で紀淡海峡を含む瀬戸内海でサワラが親しまれ、地域が誇る資源として定着している理由は何か。そこには、西京焼きなどに加工せず生で食するという地域特有の文化が関係する。足が早く鮮度が落ちやすい鰆を、新鮮なまま提供できることが地域の強み。その「味力」に迫っていきたい。(次田尚弘/洲本市)