がん患者の心を軽く アマ落語家・当事者の小笠原さん

自身の体験をもとにした落語を披露する小笠原さん
自身の体験をもとにした落語を披露する小笠原さん

「ゴスペル亭パウロ」の高座名で、全国各地を飛び回って公演する和歌山市のアマチュア落語家、小笠原浩一さん(64)。特殊詐欺被害防止、防災、相続、平和などを題材にさまざまな落語を創作してきたが、自身ががんを経験したことで新たに大きなテーマが加わった。2人に1人が生涯でがんを患うともいわれる時代。当事者だから伝えられることがあると、高座から笑顔と元気を届ける。小笠原さんは呼びかける。「最近、上を向いて笑っていますか?」――。

2024年12月、年に1度の定期検査で、腎臓がんのステージ3と診断された。手術で左腎臓を摘出。1年前からは、週に3日間・4時間の透析に通いながら、県内外で公演を重ねている。

病気が分かってから、上方落語の寄席小屋・天満天神繁昌亭へ行った。以前は笑えていたのに、がん患者となり、心の底から笑えない自分がいた。どこか違う場所にいるような取り残された気持ちで「一人、ぽつんとそこにいるような思いになった」。

誰しも不安や悩みを抱えて生きるのが人生だと理解してはいても、「元には戻れない、別なものになった」感覚が拭えなかった。

がん患者の気持ちは、がんになった人にしか分からない。「私でないとできないことがある」と一念発起。がんの早期発見や検診の大切さを盛り込み、当事者や家族の心が少しでも軽くなればと、一気に落語を書き上げた。

これまでは「聞いただけの話では説得力がない」と、知識の習得にとどまらず、身をもって学ぶことを信条にしてきた。防災士の資格を取得し、災害ボランティアにも参加。地震の被災地では、体験者や行政の担当者に直接話を聞き、未来に役立つ情報を落語にして伝えてきた。それゆえに「がんという病気を自分の言葉で語れるだけの条件が整った」、そう感じた。

この日、自身も会員で、腎臓病患者らでつくるNPO法人和歌山県腎友会(森田茂樹理事長)の総会で、集まった約40人を前に、初めて落語を披露。小笠原さんが透析に通う病院の看護師も駆け付けた。

病名を告げられた際の医師とのやりとりや心の揺れ、病院での「あるある」話も盛り込みながら、ユーモアを交えて紹介。当事者同士だからこそ共感できることもあり、温かい笑いに包まれた。

「がんに『せっかくなった』と言えば語弊があるかもしれないけれど、がんになったからには、残された人生を明るく楽しく、笑いながら過ごしたい」と小笠原さん。「落語で元気になってもらい、『落語を聞いて検診に行ったおかげで病気が早く見つかって良かった』、そう思ってもらえたなら、自分も少しは誰かの役に立てるのかもしれない」と話す。

得意とするのは人情噺(ばなし)。人生には、良いことも、そうでないことも起こる。絶望の中にも少しの希望が隠れていることもあり、それを落語に盛り込むことを忘れない。

笑いは、心と体を元気にする特効薬だと信じている。

「笑えば心が軽くなる。『落語を聞いて良かったよ』『心がほっこりしたよ』、そう思ってもらえれば感謝です」