粉河祭彩る大うちわ 孫2人が伝統受け継ぐ

和歌山県紀の川市で行われる粉河祭の渡御を彩る大うちわ。その制作を長年守り続けてきた井上健さん(93)の技を、2人の孫が受け継いだ。「僕らがやる」と祖父の思いを継ぎ、制作に挑む孫たちが、粉河のまちに新たな風を吹き込む。
井上家は、紀州藩の御用うちわ師を務めた「うちわ屋」だった。扇風機の普及で商売としての制作は途絶えたが、粉河祭の渡御式で使う大うちわだけは、先祖代々の技を継承し、今日まで頑なに守り抜いてきた。
大うちわの起源は古く、かつて粉河で疫病が流行した際、それを打ち払おうと願って作られたと伝えられている。

高さ5㍍、あおぐ部分は横幅3㍍、重さ約30㌔。竹を組み合わせた骨組みの上に紙を貼り、片面には神社の紋の「巴」が、もう片面には行列で馬が疾走する姿が描かれている。
ことし、体力の限界から引退を決意した健さんに「僕らがやる」と名乗りを上げたのが、健さんの一人娘である中万規子さん(67)の息子たち。長男の辰元さん(38)は愛知、次男の馨二郎さん(36)は東京で働く。
幼い頃から作業に親しんできた2人。兄の辰元さんは「先祖から祖父が懸命につないできたもので、その誇りと技を継ぐのは自分たちしかいない」と話す。弟の馨二郎さんは「小さい頃から見てきた風景で、作ることが当たり前だった」と振り返り「遠方に住む今、維持する難しさは痛感している。それでも、どうすればこの伝統を守り未来へ残せるかを日々考えている」と胸中を明かす。
長年培った技が孫たちの手でどのように継承されたのか、制作の最中、体調を案じられていた健さんが、出来栄えを確かめるため、作業場を訪れた。
完成した大うちわを前にした健さんは、病を忘れたかのように目を輝かせ、「上出来だ」と笑顔を見せたという。これまで制作を支えてきた、健さんの妹の宮本恵美子さん(79)と万規子さんは、その姿に胸をなで下ろした。

万規子さんは「父が喜ぶ姿を見て、それまでの重圧が一気に消えました。『渡御式に出さないのはあり得ない』という重圧と闘ってきましたが、先祖からつないできたものを大切にする子どもたちの姿に救われた気持ちです」と笑顔を見せた。
地域や保存会の協力を得て、大仕事を完遂させた2人。井上家の歴史が、父から子、そして孫たちへと引き継がれた。
完成した大うちわは粉河祭まで粉河寺境内に飾られ、参拝客を迎えている。
粉河祭は25日に宵祭、26日に本祭。渡御式は26日の午後4時開始予定。


