ハレの日を彩る「こけら寿司」

「こけら寿司」の一例
「こけら寿司」の一例

前号では、平安時代から受け継がれる「昆布寿司」の歴史と魅力を取り上げた。地域性が豊かな郷土料理は他にも。今週は、和歌山市の沿岸部で親しまれる「こけら寿司」を紹介したい。

こけら寿司は、すし飯の上に身をほぐした焼き魚や卵、シイタケやニンジンなどの野菜を乗せ、押し固めたもの。寿司を固めるための木枠に、屋根をふく際に使用する「こけら板」を用いていたことから、この名が付けられたという。

その魅力はすし飯の上に乗せる具材が、地域によって大きく異なること。それは同じ和歌山市内であっても地区によって特徴が見られる。例えば、田ノ浦がある田野地区。ここでは春から夏にかけて取れる「ヒメジ」や「エソ」を使い、夏祭りで振る舞われたという。

一方、直線距離にして1㌔に満たない雑賀崎地区ではエソの頭と尾、内臓を落としたものを焼き、小骨を抜いた上でそぼろにしたものを使う。身をほぐすために包丁でたたくことから、通称「トントン寿司」として親しまれてきた。

さらに数キロ北上した松江地区。ここではすし飯と「エビ」や「鯛」をほぐした身を重ね、段を作る。同じ和歌山市内であっても、その地区で水揚げされる魚の違いにより、同じ名前であっても具材や見た目が全く異なるものになる。

県外に目を向けると、高知県や三重県などの太平洋沿岸、兵庫県などの瀬戸内海沿岸の地域でも郷土料理として存在。高知県ではすし飯に柚酢を用い、三重県では地域によって段の数が異なるなどさまざま。

共通項は、身近な魚を使い、ハレの日に振る舞われるめでたいもの。全てを把握することは困難だが、特別な日に食べる先人の思いが詰まった料理。現代にも地域ごとに残る、こだわりの伝統を、色あせさせてはいけない。(次田尚弘/和歌山市)